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彼女はファンタジー。1

 一言で言えば、変な女の子だ。

それはうちのクラスの平野、という女の子のことだ。
高校2年で初めて一緒のクラスになってすぐに、
平野は僕のことを「しょうへい」と呼ぶようになった。
僕の名前は「河本壮太」であり、しょうへいではない。
平野香奈は何度説明しても「ウンウン、わかったよしょうへい。」と言って話を聞いてくれない。

目が大きくて、絵を描くのが好きで。
聞くとお母さんもびっくりするくらい綺麗な人だという。
たまに平野香奈とその母親が並んで買い物をしているのを見るというクラスメイトが「もう、ありゃあ姉妹だわ。」というほどだ。
きっと見た目も若く、可愛いのだろう。その話から察していただけると思うが、平野香奈もやたら可愛い。派手な顔立ち、というのか。
静かでおしとやか、というのとは全然違う可愛くて、煩くて、元気な女の子だ。スカートは短い。ありがとう。

「なあしょうへい。」
それほど仲良くなるきっかけもないが、彼女が僕のことをそう呼んで親友のように扱うので僕もそれに応えていた。

「どうしたの。」「これどう思う?」
そうやって見せてきたのは携帯だ。
その画面にはブランドのバッグが表示されている。みんな大好きフリマアプリというやつで、どうやら平野香奈はそれが欲しいらしい。
「ん、いいんじゃない。欲しいの?」
「うん。欲しい。」キョトンという。
「んー?」値段を見てみて、「うわ。」と声が出た。
「10万円するじゃないか!」
「そうなんだよおしょうへいい。」困ったように眉をハの字にして口元を尖らせて、僕の制服を握り締めてぐわんぐわんと揺さぶる。

「わああこらこら!やめなさい!」
そういうと揺さぶるのはやめるが、彼女は困った顔のまま唇を尖らせて「ん〜。」と言う。甘えた声や表情をしたってダメだよ。と言っても聞かない。

しかし高校生に10万はでかいんだ。
「じゃあ平野さん。」「ジャスミンって呼んで。」「断る。平野さん。」「ジャス。」「だめ、平野さん。」「スミン。」「やだよ。」「ミンジャス。」「わからない。平野さん。どうにかして、稼ぐ方法を考えるのはどう?僕は友達に10万の鞄を買ってあげられるほど潤沢な経済力を持った高校生じゃないし、それに持ってたとしてもなかなか人に使えないし。」

「そうかなあ。」

「そうなの。だから手伝うからさ、二人で10万円稼いでみるって言うのはどう?」

「私一人じゃない?しょうへいも?」

上目遣いはもうキラーコンテンツ的だ。

「うん、そうだよ。僕も。」しょうへいじゃないけどな。

「え、じゃあバイト探す?」
唐突に彼女が身を乗り出して目を輝かせる。
可愛い。

「そうだねえ。それが間違い無いかな。おそらく学校終わりにバイトして、良くても五万円稼げればいい方なんだけど。それでも二人合わせたら、10万円になるよ。そしたらそれ買えるよ。」

「えーやったー!しょうへい何するの?」

「うーん、まあ多分飲食系?マックとかそんなのかな。」

「えー絶対買いに行くね!」

「いやいや!お前も働けや!」

「えーだって私ー、あんまり死ぬまでに働いたりしたく無い。」

「でも鞄は欲しいの?」

「そりゃあお出かけするときに鞄が可愛かったら上がるしー。」
「でも働かなかったら、お金もらえないよ?」
「いえ、私は何かもっと楽で楽しくて楽な方法を見つけます。バイトなんてしてたら普通です。」
急にキリッとした表情をして、ジャンヌダルクよろしく僕を見つめる彼女。

楽な方法って。
「まあ、それなら任せるけど変なのに引っかかっちゃダメだよ。」
「変なのってなんだしょうへい。」
「いやだからその、なんて言うの、親に見せらんないようなものっていうか。」「そういうのをなんていうの?」「え。なんていうって、そのほら。わかるだろ。」「わかんないわかんない。」

「もう、エッチなやつだよ!」
「あ!しょうへいの顔、真っ赤っか!!」

そう言って彼女は揶揄うように僕を指差して、とっても明るく笑った。
何を見つけてくるのか、どうやって十万円を稼ごうというのか。
僕には皆目見当もつかず、二日がすぎた。

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