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新説・トイレの花子さん。

 俺たちはあの夜、自分達の母校である小学校に忍び込んである実験をした。それは昔から伝わる「トイレの花子さん」の噂だ。三階の女子トイレの一番奥の個室を夜中の12時に3回ノックして「花子さん遊びましょう」と呼びかけると、花子さんが出てきてトイレの中に引き摺り込まれてしまうという話だ。おそらくどこの小学校にもある噂だと思う。それが俺たちの学校にもあった。
メンバーは俺こと太郎と、卓也とその弟で現役この小学校に通っている裕也の三人だ。

あと5分で12時になる。宿直の先生にはばれずに何とか三階のトイレの前までこぎつけた。卒業して2年。なんだかこの小学校の全てが小さく見える。俺も卓也ももう来年で中3だ。

「おい卓也、どっちがトイレノックする?」

俺が聞くと卓也は素っ頓狂な声で「え?おれやだよー。こわいじゃん!」と言った。弟の裕也も兄の影からこっちをジッと見ている有様なので俺が代表して花子さんを呼び出す事にした。

とはいえ、実際に花子さんなるものが現れるとも思えず、夏の思い出作りに母校へ肝試しに来たくらいの感覚でいるのだが。。。
いざ音のしない真っ暗なトイレの中に立つとなかなかゾッとする。案外こええな。

でも勇気を振り絞って、俺は拳を握り締めトイレのドアをノックした。


コン、コン、コン

「花子さん、遊びましょ」


「。。。。。。。。。。」


「。。。。。。。。。。」


「まあな、何も起こるわけねーよ。やっぱり噂は噂だ。」

しばらく待ってみたが誰も入っていないトイレからは何も音がせず、その間遠くのほうで犬が二三度吠えた程度の音しかしなかった。もちろん中から花子さんが返事をする事もなかった。

俺も卓也も裕也も、緊張の糸が解けたというか安心したというか。何しろほっとした。

「じゃあ、せっかくだし校内散策して帰ろう。」俺が提案すると卓也も裕也も乗ってきた。

意気揚々と女子トイレから出るとそこには赤いノンスリーブワンピースを着た女の人が1人立っていた。
「んギャあああああああああああ!!!!!!!」
情けなくも叫んでしまったのは俺だ。女の子もよく見るとギョッとした顔をしている。

話をよく聞くとその子は近くに住む高校生で夏休み暇だったから花子さんを探しに来たという。月野華ちゃん。花子さんと同じハナちゃんだねーと裕也が言うと華ちゃんはそうだね、といってけらけら笑った。真っ白い肌が印象的で笑顔が超可愛い女の子だった。俺たちは自己紹介も含めてしばらく話し込んだ。

「でも花子さんいなかったよ。今ノックして呼んだけどうんともすんとも。」と俺が説明するとそっか、と華ちゃんも残念そうにしていた。すると華ちゃんは「じゃあせっかくだからかくれんぼでもしない?夜の学校でかくれんぼはスリルがあっていいよー。」俺たちは新しく出来た友達の提案を受け入れた。華さんはじゃあ私がオニやってあげる!と明るく宣言し、俺たちに「ほらにげろー!」と扇動した。
とはいえ俺たちは三人バラバラになるのが怖かったので、みんなで同じ部屋の中で違う場所に隠れる事にした。卓也は教卓の裏、裕也は誰が見ても分かるカーテンの裏。そして俺は掃除道具入れの中。ここからなら部屋の全景を見渡せるし見つかりにくい。はずだ。

しーんと静まり返った部屋。校舎。

部屋に差し込む月の光が美しく教室の机と椅子を浮かび上がらせている。俺は部屋の様子をどきどきしながら観察していた。卓也も裕也も物音一つ立てない。

しばらくするとガララ、と引き戸の開く音がした。

華ちゃんだ。真っ白な肌が月明かりに照らされて青白く光って見える。俺はこの時少し年上のお姉さんに恋心を抱いていた。多分、卓也も裕也もそうだったと思う。

華ちゃんはゆっくりと注意深く、部屋の中を見て周り、卓也を発見した。

「あ、卓也君、みーーーーっけ。」
そういうとのろのろ教卓の裏から出てきた卓也はちょっと悔しそうに「見つかんないと思ったんだけどなー」と言った。「こんなとこでー?」と華ちゃんにからかわれて少し嬉しそうにしていた。が、次の瞬間卓也の背後から華ちゃんが襲いかかった。その真っ白な腕を卓也の首に巻きつけると冗談ではない様子で絞め始めた。
俺はなんでそんなことをするのかわからず、え?、なんで?と小さい声で独り言を呟いていた。掃除道具入れの中で。

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