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危険な瞬間。2

 思いがけないことだった。
清田憲弘は真アジアプロレスという団体のエースレスラーだ。
普段は「オーシャン・ブルーバード」という覆面レスラーで活躍している。

ことの発端、というものがあるとすれば
つい先日。

真アジアプロレスの道場に、久しぶりに道場破りがやってきた時のことだ。
清田は自称空手家というその痛いおじさんがリングに上がり込んできたので、学生時代勤しんでいた柔道の経験を活かしてその自称空手家を投げ飛ばし、関節を極めて追い返したことがあった。

その時、お疲れ様です。と声をかけてきてくれたのがアカネ、という団体所属の女子レスラーだった。

彼女はこの団体の中では一際目を引く美貌の持ち主だった。
女子レスラー、しかも空中殺法を主体とするルチャの選手で、
一番の武器はその華やかさだ。
できるだけコスチュームも露出の多いものにさせて、最初はマスクを被りたいと言っていたにもかかわらず会社の一存で、綺麗な顔を曝け出してやってもらうことになった。

清田はプレッシャーからの解放と、こういう時のそんな役回りに機嫌を損ねていて、彼女に「ああ、いいよなお前は、別に強さとかじゃなくてただエロい格好してリングでぴょんぴょんしてりゃいいんだからな。」と言った。
彼女はしゅん、と俯いてペコリと頭を下げて去っていった。

清田は、ああ、変なことを言ってしまった。と一瞬後悔したが、しかしもう後には戻れなかった。

きっかけ、というかこれが発端といえば間違いなくそうだろう。

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