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go fight win.

 あと少し。あと少し・・・・。。。
遠くの方で応援してくれるみんなの声が聞こえる。
この新人戦で勝てば、最終大本命、インターハイ予選はずいぶん楽になる。

僕は神成学園高等学校が全校を挙げて応援してくれる、高校ボクシング界の期待の星、と言われている。山村悟。
しかし、この決勝の相手。かなり手強い。
もう少しで判定に持ち込むことができれば、なんとか・・・なんとか・・・・。

体育館の真ん中に組まれたリングを囲むように、学校の友人やチアリーダーの応援がひしめき合う。最初はしっかり聞こえていたそれも、もう今は遠い。なんとか相手と距離をとりつつ有効打か、それに見えるものを打ち込もうと画策するが全ての動きがはっきりと鈍い。

今日は調子が悪い。

そういえば、それまでなんだが。

そして相手はすこぶる調子が良さそうなのがたまらなく嫌だ。

あと少し・・・あと少しだけ。

相手が左に踏み込んでくるのを、
僕はほとんど本能的に後ろに下がってかわして、
相手の足が想定よりも深く踏み込んだのを見て、危ないのはわかった。
でももうどうすることもできなかった。

気づいた時には思いっきり真正面から相手の左ストレートが顔面を撃ち抜いていて、もう体力は限界をとっくの昔に超えていたのでその衝撃を持ち堪える精神力もなかった。

ドターン!!!

とリングに伸びて、まるで100キロマラソンを3回走ったくらいの凄まじい消耗と息切れの中、僕は10カウントをそのまま聞いた。

リングの外側から落胆と心配の声が巻き起こるのをぼんやり聞いた。
勝負を諦めてしまった自分への怒りとか、そんなものよりこのクソしんどい試合が無事に終わってくれたことへの安堵が勝る。

もしかすると、もう僕はみんなに応援されるこの状況に甘えてこれ以上の結果を望まなくなっていたのかもしれない。

それは紛れもなく正直な僕の気持ちだった。

「おい大丈夫か?」
「悟ぅ!!」
「めっちゃ頑張ってたよ!」
「次があるからな!!」

クラスメイトたちがよろよろと帰っていく僕に声をかけてくれる。
ありがてえありがてえ、と思いながらこいつらはみんな俺が途中で心折れて勝負から逃げたこともわからないだろうとたかを括っていた。

慢心。まさにそれだ。

翌日。

月曜日。

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