日曜日のこと。
「この後暇ですか?」
唐突な逆ナンパを受けたのは、日曜日の昼下がりだ。
「えっ・・・俺ですか?」
と目をぱちくりさせて狼狽えながら、
僕は格好をつけて「俺」などと自称しながら返答した。
彼女はショートヘアの似合う、顔の小さな女の子だ。
名前を「藤村咲」と言って、僕の一歳年下の女の子だ。
なぜ、逆ナンパをしてきた相手の名前や年齢まで僕が知っているかというと、ここは柔道場で、今日は県の大会が開かれている。
僕は、どこにでもある弱小柔道部の一員で高橋太一という。
彼女は、県下随一の強豪校の一年。もう今年のインターハイから間違いなく出場だろうと言われているバチクソエリートである「藤村咲」である。
もちろん、この時が初めての邂逅であり初めて口を聞いたわけである。
そりゃあしどろもどろにもなるだろうということだ。
そんなわけで、周りにいる僕の学友たちの表情のなんと不可思議なものを見るかのような眼差しに強烈な優越感を覚えながら、僕は彼女のその次の言葉に優越感を優に飛び越して、優飛越感を味わいながら。そんな言葉ねえよ。という自分へのツッコミもおざなりにして「わかりました。」となぜか敬語で返答をした。
彼女は「あの、前に見た時から気になってたんですけど。一緒に遊んでくれませんか?」と、言ったのだ。人々がいる前で。
青春のど真ん中に自分が存在していることを、この時をはっきりと味わえたことはない。ゴールデンウィークを目前に控えた、まだそれほど春から遠ざかっていない気候の中で僕は心の中でガッツポーズを決めた。
制服姿のまま、僕たちはありとあらゆる注目を浴びて会場から近くの街までを散歩するように歩いた。
「あの・・・藤村さんはどうして僕を・・・?」
とおずおず尋ねる。もしかすると、もっと他愛のない話をするべきではないかという頭もあったがなにしろ気になりすぎて、そんな話を切り出していた。
「うーん。なんていうか、気になっちゃったんですよね。うん。」
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