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悪魔の放課後。1

 内村恭平はイラついていた。
子分と言ってもいい、清田順一を連れて、イラついていた。

今年で高校二年になる二人は、今日も生徒指導の教師に思いっきり怒鳴られ
せっかく一端の不良を気取っているのに思うようにことが進まないことに、イラついていた。

もう気がつけば校舎は西陽に染まって、オレンジ色一色だ。
まるで昼間眺めている退屈な世界とは違う。
内村も清田も早々に学校を抜け出して遊んでいることが多いから、
学校が持っているこの別の顔というものをほとんど知らない。

二階から見下ろすその世界は実に秋めいていて、季節の匂いを織り交ぜつつ風が吹き抜けている。
中庭ではまだ完全には色づいていない木々が楽しそうに揺れているのが見える。

「なんだよ、ムカつくなあ。。」

内村はどう見ても青春そのもの、まさにど真ん中といった風情のその景色にすらムカついていた。

運動場では野球部、サッカー部、陸上部、少し離れてテニス部などが汗を流している。
学校という施設に、そのしきたりに付き従って楽しそうに疑いもなく人生を謳歌する部員たちは内村をさらに苛立たせた。

「まあまあ、仕方ないよ。ね?」
順一は機嫌を伺うように小さい声でそう言った。

「うるせえ!!」

「ヒイィっ!!」

内村の大きな声は虚しく広い廊下に響く。

その時。
内村はこの学校で自分たちが恐れられる存在になるためにしなくてはならないことを思いついた。
「悪事」だ。これまで内村たちは隠れてタバコを吸ったり、授業をさぼったりと小悪党みたいなせこい真似ばかりしてきた。
が、もうそんなことをしていてはいつまでもこのままの状況を打破できない。
ここは一つ大きな悪事を働いて、一目置かれる努力をしよう。と、そう思いついた。

「おい清田。いいことを思いついたぞ。。。。」

ゴニョゴニョと耳元でささやく内村の声に、清田の顔は見る見る青ざめていく。

「え・・・いやあ・・・あの・・・それは・・・ちょっと・・・むり・・・かも・・・・?」

内村は自分のアイデアを生意気にも却下しようとした清田の頭を叩いて、「うるせえ、文句あっか!」とすごむ。
「いえ。」という清田の声は窓の外を行き交う風の過ぎる音よりも小さかった。

内村と清田は一階に向かった。
そこには内村が想定する中で最も都合の良い部活が練習を終えていた。

「よしよしよし・・・これで良い・・・。」

内村のアイデアは、運動部系の部活の中でも最も戦闘力の低そうな部活、つまり女子部を狙ってカツアゲを敢行しようというものだった。
体育館にあぶれた卓球部やバトン部なんかが時折廊下で部活をすることがある、というのは噂話で聞いていたことがあった。
そして目の前にいるのは「体操部」の奴らだった。女子ばかり6人ほどがもう制服姿になって、自分たちの道具を体育館に返しに行こうとしているところだった。

内村も清田も、学校のことに明るくないため、
その体操部が全国的にも強豪と目されていることも知らなかった。
つまり、その練習も全国レベルの厳しいものだ。
それが何を意味するのか、内村たちは身をもって知ることになる。

「よし、いまだ。清田。いくぞ!」

「い、いや、ちょっと・・・ちょっと待って・・・・・」

半ベソをかいている清田の言葉も無視して、内村はスタスタと彼女らのところへかけていく。

「おい姉ちゃんたち!!」
少しドスのきいた不良っぽい声が内村の口から飛び出す。
「?」少し驚いた様子で振り向いた彼女らはキョトンとして、突っかかってくる内村のことを眺めた。
その顔はみんな少し幼く、一年生ばかりのようだった。

「なんだお前ら、一年か?」

内村は少しばかり怯えた様子を見せる彼女らに気分をよくして、そんなことを聞いた。
彼女らは、「先輩たちはよその高校に練習に行っているので、私たち一年はお留守番です。」と口を揃えて答えた。
髪を下ろした彼女らは制服をきれいに着こなし、少し短めに詰めたスカートもよく似合っていた。
「そうか。。。それはちょうど良いな。先生もいねえんだろ?」
内村はいよいよ調子づいて声も大きくなる。

一年生たちの動揺が清田には手に取るようにわかった。
あまり穏やかではない内村の不良っぽい容姿とその様子に気圧されている・・・ようには見えなかった。

むしろ、彼女らにはどこかウズウズしているような様子さえあった。

「はあ、で、なんか用ですか?」
一年の中でもリーダー格と思しき少し身長の高い女の子が突っかかるように言った。

「ああ?てめえ誰に口聞いてんだコラ。」
内村はもう有頂天で彼女にそう恫喝する。
「私たちもう帰るんですけど、邪魔なんでどいてもらえますか?先輩。」
「なんだてめえ殴られたいのか!??」
清田はもういてもたってもいられず、割って入った。

「まあまあまあまあ、ほら、君らも大人しくしてたら殴ったりしないからさ。ね?ほら、早くお金出しなよ。」

清田は内村に背中を見せながら、身長の高い彼女にそう言って手を差し出した。

次の瞬間。

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