見出し画像

触れてはいけない。

 「おい・・・まただよ・・・・。」
騒然としているのは街から少し離れたところにある大きな河川敷だ。
鬱蒼と生い茂っている緑の草むらの中に、何かが転がっているのが見える。

けたたましいサイレンと共にパトカーと救急車が現れると人混みがまるでモーゼの十戒のようにわれて、「はいどいてどいてー!!」とマイクを使った声が響く。
翔太は中学へ行く通学路にその河川敷の上を通る。非日常に触れて気分がハイになるというのは、彼にとっても同じことだったが、
しかしこうも度重なるとその気分はハイどころか真逆の暗澹へと落ち込んでしまう。

あれは1ヶ月ほど前のことだ。

「赤羽川の河川敷・・・知ってるか?」

学校へ着くと、翔太は友人の正和に耳打ちされた。
「なんか、人混みあったけど・・・・。何?」
翔太はなんとなく怪訝な気持ちで野次馬根性が表に出たような訳知り顔の正和に問い返す。

「実は・・・ここだけの話なんだけど、サツジンジケンらしいんだよ。」
「えええ!!??」
翔太が思わず声を上げるので、正和は口に「シー!!」と指を当てて誰が興味を示しているわけでもないのに周りを気にするフリをする。
教室の中は相変わらず元気ないつもの景色が繰り広げられている。

気になったのは、いつもクラスで最初に登校する「ヨッシー」こと吉川の姿が見えないことだ。
背の小さい吉川はいつも早起きをしてあの河川敷をランニングすると言っていた。
「ランニングやめたら背が伸びるんじゃねえ?」という正和の言葉に吉川はいつも頬を膨らませて反抗していた。

「それがよお・・・、どうもヨッシーの親父さんが・・・・らしいんだ・・・。」

「ええええええええ!!!!!」

翔太の驚嘆の声は次こそ教室中の耳目を集めた。


果たして、ことは正和の言う通り、河川敷で発見されたのは吉川の父親だということだった。
非日常がもたらした高揚は下らない好奇心を連れてくる。
しかしどれだけ探ろうとも、吉川の父親がなぜ、誰に、どのような理由で殺害されたのかを知ることはできなかった。
吉川は、それから学校に顔を見せていない。

その次の週、朝からやけに騒がしいと思って翔太がマンションの部屋のベランダから音のする方を覗くと、
やはりパトカーや救急車が河川敷に集合していて、そこには朝早いというのに結構な人数の人だかりができていた。
「また。。?」
秋の気持ちいい風が一陣、朝の素敵な景色の中を駆け抜けて
その人だかりの真ん中でブルーシートを跳ね上げた。
瞬間、翔太の住んでいるマンションにもはっきりと聞こえる人々の悲鳴が鳴り響いた。

「ぎゃああああ!!!」
「きゃああああああ!!!!!」
金切り声と怒声の入り混じった声は翔太にさえ、緊張をもたらした。
慌てて部屋に入ってパソコンをつける。
ネットには何か情報がないか、と「赤羽川 死体」と検索してみた。

するとそこには正視するに耐えない吉川の父親の遺体の写真が並んでいた。
翔太はぞくっとして背筋が凍ったが、しかしその写真から目が離せなかった。

ここから先は

7,725字

¥ 2,000

読んでいただきましてありがとうございます。サポート、ご支援頂きました分はありがたく次のネタ作りに役立たせていただきたいと思います。 皆様のご支援にて成り立っています。誠にありがとうございました。