ミュージカル『The Beautiful game』の観劇記録
CAST(敬称略失礼します)
ジョン:小瀧望
メアリー:木下晴香
トーマス:東啓介
クリスティン:豊原江理佳
バーナデット:加藤梨里香
ダニエル:新里宏太
ジンジャー:皇希
デル:小暮真一郎
オドネル神父:益岡徹
今村洋一
江見ひかる
岡本拓也
尾崎 豪
後藤裕磨
齋藤信吾
酒井比那
酒井 航
鮫島拓馬
社家あや乃
田川颯眞
富田亜希
中野太一
広瀬斗史輝
松田未莉亜
宮崎 琴
門馬和樹
安井 聡
吉田萌美
渡部光夏
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負の連鎖に巻き込まれていく若人たちの、愛と憎しみに満ちた青春群像劇。
実力派若手キャストを中心に構成されたカンパニーが描く世界は、説得力を持って我々に問題提起している様である。
現代にも起こり続ける戦争。戦って正義を貫くか、戦わずして勝利を掴むのか。はたまた何もせず立ち止まって世を憂うのか。どの立場にもそれぞれの正義や信念があり、どれが正解とは言い難い。そうした戦争が渦巻く現実を、令和の日本に投げ掛ける本作は一度見て損はない作品だと思う。
♦︎絆の対比
青春時代に築いた友情は素敵なもので、人生の宝といえる。メアリー・クリスティン・バーナデットもまた同様で、全くタイプの異なる女性たちでありながらも、互いの恋を自分ごとのように喜び、涙を共にし、居場所や立場が変わっても友情を確かに持ち続ける姿は、本作の希望ともいえよう。
一方で、"ショートパンツの彼ら"は青春時代に気づいた友情を紛争によって崩壊させてしまった。終いには互いが互いを傷つけ、死に追いやっていく。1番の元凶はトーマスだと言えるが、彼もまた自身の正義を貫いたまでのこと。サッカーを通じて友になったはずなのに、気づけば仲間の結婚式にも来ず、刑務所の面会にも来ない"友達"になる。ジョンやデルは最愛の妻や家族が支えになるかもしれないが、その他の絆を失った彼等は何を拠り所にするのだろうか。
また、もし彼らが出逢ったのがベルファストでなければ、どんな絆を産んだだろうか。はたまたベルファストでなければ、彼らの絆は生まれなかったのだろうか。
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(※以下、批判的な意見を含みます。閲覧ご注意ください。)
ただ、本作においてどこかモヤっとする幾つかの点が心の中に残り続けている。
①箱が大きすぎるのではないか?
今回、東京は日生劇場で上演された訳だが、どこかのっぺりとしたような印象を受けた。演出の問題なのか、単に私の好みと合わないだけなのかはわからないが、例えばシアタークリエの規模感の方がより鮮明に青春が荒廃していく様を描けたのではないかと想像する。勿論作品の事情だけでなく、キャストの集客力の状況で箱のサイズは変わっていく仕方なさはあるのだが、もう一回り小さな箱で上演される本作を見てみたいと思った。
②結末をどう受けとるか?
本作は1970年代のアイルランドを描いているが、いくら史劇的要素が強いとはいえ、私はどうしても結末の展開に納得が出来ないのである。それは主に、ジョンの立ち回りについてだ。
ジョンが"友人"を救うために、初夜のホテルに新妻を残して出掛けて行くところはまだ理解出来る。だが妊娠、出産と女性にとって大変な時間を1人で過ごさせ、出所を妻に伝えず、家に帰らないと言い放って港へ出掛けていく。そういった立ち回りをしておいて、最終的にうちに帰ればハッピーエンド!になるのだろうか。勿論、現代と状況が全く異なることも、ジョンが好んで刑務所に入った訳ではないことも重々理解しているが、ラストできらきらの紙吹雪が舞うほどの"美談"なのだろうかと思わずにはいられない。
確かにジョンはとても不器用な男だ。どちらか選べと聞かれた時に『どっちも大切!』と答えてしまいそうな、素直で実直な男性なのだ。だからこそ、ロンドンへ飛び立つことも、メアリーに伝えないこと=彼女は幸せだと思い込んでいる。メアリーが影でどれほどジョンを想い続けているかを知らずに。
個人的にはジョンとメアリーが抱き合って暗転……で終演となれば良かったなと思う。そうすることでジョンとメアリーの次の会話を想像出来るから。ハッピーエンドか、バッドエンドか各々感じ方が違うような、正解を決めない終わり方でも面白かったのではないかなと思う。