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畑のある暮らし

 畑をはじめてかれこれ10年ほどになるだろうか。

 家から少し離れている畑へはいつも車で向かう。家からしばらく車を走らせ町中をぬけると、山道にさしかかる。その道が私のお気に入りだ。

 きらきらと木漏れ日が差し込む木々のトンネルはとても美しくて、いつの間にか呼吸も深くなる。畑へ向かうこの木漏れ日道をぬける行為は私にとっては日常の諸々から解放されるお清めの儀式のようなものになっているのかなぁと思う。


 畑について畑装備をしたらさっそく野菜たちの見回りをはじめる。   さて、みんな今日はどんな様子かな。おっ!先日友人と種をまいたミックスレタスが色とりどりに発芽してる!感動~(レタスはいつも失敗してしまうのだ) お引越ししたキャベツがちゃんと根付いてる!嬉しいなぁ。冬越えしたパクチーはこの気候で例年より早くとうだちしそうだな。少しでも種を残そうとするのを遅らせるために剪定してあげなくちゃ。そんな感じで一つ一つ野菜たちの様子をみながら挨拶をしていく。

「みんな、おはよう。」「おっ、ちょっと大きくなってきて狭そうやね、ちょっと間引きするわ。」「葉っぱの色が少し黄色くなっってきてるなぁ、息苦しいかなぁ?ちょっと空気が通りやすくなるよう穴をあけてみようか」とまあこんな風に40過ぎた女が一人で笑って野菜に向かって話しかけているのだからはたから見るとかなり怪しい。

 最近では冬を越えたスナップエンドウが空に向かってつるをのばし、毎日すずなりの豆を恵んでくれる。これがまた子ども達がその場でガジガジと生で食べるほど甘くて瑞々しくて美味しい。

 「スナップエンドウはこっちにいってほしいからと無理やり方向を決めつけて無理に紐で結んでしまうと、一気に元気がなくなるんだよ。子育てと一緒だね。」

 これは昔自然農法を教えてくださった方がおっしゃっていた言葉。まさかとその時は思ったけれど、やっぱりその通りで、動きを妨げたり矯正しようとすると、確かに元気をなくしてしまうのだから面白い。スナップエンドウたちは光を求め、自らが伸びたい方向に伸びていく。その方向をきめるのはスナップエンドウ自身。それを聞いてからは余裕があるときは、つるの様子をみながら、一体どっちにいきたいのかな?とよく観察して作業することを心掛けるようになった。ほんと子育てと一緒だな。スナップエンドウをお世話しながら毎年その言葉を思い出すのも、なんだか嬉しい。

 畑作業は黙々とやっていると、頭の中を支配していた思考はいつの間にか何処かへいってしまう。その代わりに触れている土の感触、緑や水を含んだ土の匂い、鳥たちの鳴き声が耳にはいってくるように。見上げるとトンビが空高く舞い、雲も踊っているように軽やかだ。色彩も一段と鮮やかになり、解像度があがったように何もかもがきらきら輝いてみえてくる。

 ああ、世界は美しいなぁと、畑に行く度、感動してしまう。

 ありがとう、畑。

 ありがとう、美しい世界。

                         2021/05/28   

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トーリ
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