天下一家の会事件
こんにちは。
「本当に儲かる話は絶対に他人から教えてもらえない」という格言があるのですが、それでも多くの若者がSNSなどの勧誘でマルチ商法に手を出す事例が後を絶ちません。
今日はその手口の原点とされる「天下一家の会事件」(長野地判昭和52年3月30日判例時報849号33頁)を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
ネズミ講を運営していた天下一家の会の内村健一は、「親しき友の会」に入会した会員に対して、「ようこそ、友の会へ。会員なったあたなたちは、本部が指定する5代上位の会員に1000円を送金してください。本部には入会金1028円を送金してください。あなたたちは、4人の新会員を勧誘して入会させましょう。そうすると、その子会員がさらに4人を勧誘し、さらに孫会員が同じ活動を行なうと、なんと合計で1,024,000円の配当を受け取れるのです」と説明し、延べ約120万人から、約1896億円を集めていました。しかし、配当を得られなかった会員たちが入会金の返還を求めて提訴しました。
2 会員たちの主張
内村は、パンフレットなどで、親しき友の会に入会すれば、2人の子会員を勧誘するだけで、数ヶ月後には満額の送金を受けられると宣伝していた。しかし、1人が2人を勧誘していけば、計算上は28代目で日本の人口を超えてしまうのです。しかも、勧誘された人がみな会員になるわけでもありません。労せず一攫千金を夢見る人間の金銭的欲望をかりたて、労働意欲を喪失させ、健全なる社会を破壊し、混乱を引き起こす詐欺的な勧誘で、会員の中には行き詰まりのため、倒産や休業に追い込まれた者、高利貸しから借金返済に窮している者、いわゆる夜逃げをした者、取引上の信用を失った者などが多数出ており、その挙げ句に自殺をした者もいる。こんな契約は公序良俗に反して無効であり、支払ったお金をすべて返してもらいたい。
3 内村健一の主張
会員たちは、後順位会員から送金を受ける地位を取得し、見舞金を受領しうる権利、保養所を利用しうる権利を取得したのであり、現に会員らの中には、後順位会員から送金をうけた者、見舞金を取得した者、保養所を利用した者が多数いる。送金を受けていないという者もいるけど、これらの会員も子会員を2名勧誘して加入させる義務を充分承知のうえで入会しているのであって、その義務を履行しないで自らを被害者とするのは自分勝手いわざるを得ない。
4 長野地方裁判所の判決
ネズミ講は、その本質が必然的に限界と行き詰りが生ずるものであり、多数者の犠牲により少数者及び内村が不当に利得するという非生産的で射倖的な性質を有するものであるにもかかわらず、内村は、ネズミ講につき欺罔的、誇大的な説明、宣伝をなし、一般大衆の射倖心と無思慮に乗じ、労せずして高額の金員を受けられるかのように期待させて入会せしめ、その結果自己は不当に利得をえながら、一方で多数の被害者を出し、種々の社会悪と混乱を惹起しているというべきであり、従って、被害を受けた会員らと内村との間のネズミ講の入会契約はいずれも公序良俗に反するものとして民法90条により無効といわざるをえない。
よって、内村は会員らに約420万円を支払え。
5 無限連鎖講防止法が制定される
今回のケースで裁判所は、ネズミ講への入会契約が公序良俗に反して無効であるとして、会員らに対して入会金の返還を認めました。その後の1978年に、無限連鎖講の防止に関する法律が制定され、ネズミ講を開設すれば3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、勧誘した者も20万円以下の罰金を科されることになりました。あやしい勧誘には十分に注意しましょう。
では、今日はこの辺で、また。