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悪魔ちゃん事件
こんにちは。
キラキラネームが話題となると、「最近の若い者は・・・」という声が聞こえてくるのですが、よくよく調べてみると、「源頼朝」、「徳川慶喜」、はたまた「細木和子」(「和」という漢字に、「かず」という読みは無いようです)もキラキラネームだという意見に触れて、唐揚げにレモンを搾ろうとして汁が目に入ったくらい驚いた松下です。
さて、今日は人の名前について世間で話題となった「悪魔ちゃん事件」(東京家裁八王子支部決平成6年1月31日判例タイムズ844号75頁)を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
スナックを営む夫婦の間に男の子が誕生しました。夫婦は、その子の名前を「悪魔」と命名し、東京都昭島市役所に出生届を提出しました。窓口ではその出生届を受け取ったが、戸籍課職員の間で疑問が出たため、管轄の法務局にその受理の可否を問い合わせたところ、「まあ戸籍法に違反していないので仕方ない。不受理とするのは無理ではないか」との回答があったために、受理手続きに入った。しかし後日、法務局の民事局長から「子の名前を『悪魔』とするのは妥当ではない。届出人に新たな子の名前を追完させ、追完に応じるまでは名前が未定の出生届として取り扱え」との指示が出たことから、受理手続きが完成していませんでした。
市役所側は、法務局の指示に従い「悪魔」の文字を赤線で抹消して「名未定」とし、夫婦に対して別の名前に改めるように指導しました。すると父親は「提出時に何も言ってへんやん」、「一旦、戸籍に『悪魔』と書いときながら、後から訂正して『名未定』にするっておかしいやん」と家庭裁判所に不服申し立てをしました。
2 父親の主張
「悪魔」という名前は、戸籍法50条に規定する制限内の文字からなっており、子どもに対し明らかに良い影響を与え、一度聞いたら二度と忘れることのない最高の概念を含むものである。妻も最初は反対していたが、「夫の勤労意欲を高める意味もある」と考え、『悪魔』の命名に賛成するに至ったのだ。役所は一旦出生届を受理しておきながら、戸籍に記載した名前を法律上の手続きを踏まえずに勝手に抹消したことは不当である。
3 昭島市長の主張
「悪魔」という名前は、明らかに命名権を濫用しており、受理はできない。確かに出生届は受理済みであるが、「悪魔」という名前については違法として未受理状態にしているのである。よって、父親の申し立てには理由がなく、失当として却下されるべきである。
4 東京家庭裁判所八王子支部の審判
親の命名権は原則として自由に行使できる。しかし、例外的に「悪魔」という名前自体は命名権の濫用で戸籍法違反であり、そうした場合には市長が名前の受理を拒否することも許されるが、一旦はその届出を受理して戸籍に記載している以上、両親に戸籍訂正の申請をさせる必要があり、それを省いて一方的に「悪魔」の表記を戸籍から抹消したのは違法である。よって、昭島市長に抹消された名の記載を復活させ、受理に伴う手続を完成させることを命じる。
5 名前の変更
東京家庭裁判所の審判を受けて、父親はメディアから注目を浴び、「とんねるずの生でダラダラいかせて」や「進め!電波少年」などの番組に出演して世間では大きな話題となりました。父親は裁判での争いが続くと子どもの名前が決まらない状態が長引くと考え、不服申し立てを取り下げました。父親は「阿久魔」、「亜区馬」という名で届け出たが受理されず、最終的に「亜駆」という名前で受理されました。
ちなみに、自らの名前を変更したい場合には、家庭裁判所に名前の変更許可を求めることができます。ただしその際には、名前の変更をしないと社会生活において著しい支障をきたすなどの正当事由が必要となります。単に、自分の好みで自由に気に入った名前に変更できるわけではないので注意が必要です。
では、今日はこの辺で、また。