芸娼妓契約無効事件
こんにちは。
大人気アニメ「鬼滅の刃遊郭編」では、炭次郎たちの敵として、堕姫と妓夫太郎たちが登場するのですが、遊郭という歴史の授業の中で語られていない部分について、多くのことを教えてくれています。
同じように、るろうに剣心に出てくる駒形由美のエピソードには、マリア・ルス号事件が出てくるなど、遊郭の歴史を学ぶことができますね。
今日はその延長として、親などが前借金をして、子供などが働いて返済する形の契約が問題となった芸娼妓契約無効事件(最判昭和30年10月7日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
昭和25年、愛媛県宇和島で、16歳に満たなかった娘の父親が、料理屋をしている店主から4万円を借りました。そのとき、父親は4万円を借りる代わりに、その店で娘を住み込みの酌婦(実体は売春婦)として働かせ、その稼いだお金の半分を借金の返済に充てるという契約をしました。
ところが、半年ほどたって、稼いだお金が父の借金に充てられることはなく、別の費用の返済に充てられていたことから、娘はお店から逃げ出してしまいました。そこで、料理屋の店主は、父親と連帯保証人に対して、貸したお金の返済を求めて提訴しました。
2 料理屋の店主の主張
わてが貸した4万円を、きっちりと払ってもらおうか。おたくの娘がこちらの店で働くという契約も、過去の判例では公序良俗に反しないとされてたはずや。仮に公序良俗で無効となったとしても、わてがあんたにお金を貸したという契約とは無関係なはずや。
3 父親らの主張
うちの娘を酌婦として働かせるという前提で、あんたからお金を借りました。ところが、娘が働いても働いても、借金が全然減らないなんて、こんな契約自体が公序良俗違反で無効や。
4 最高裁判所の判決
父親は、その娘に酌婦稼業をさせる対価として、料理屋の店主から消費貸借名義で前借金を受領したのであるから、父親の金員受領と娘の酌婦としての稼働とは、密接に関連して互いに不可分の関係にあるものと認められるので、契約の一部たる稼働契約の無効は、契約全部の無効を来すものと解するを相当する。
よって、料理屋の店主と父親との間の消費貸借契約は公序良俗違反により無効であり、料理屋の店主は、不法原因給付により、貸した金員の返還を求めることができない。
5 前借金に関する法律
今回のケースでは、親が前借金をして、子どもを酌婦として働せて返済する形の契約は、公序良俗に反し無効とされ、さらに借りたお金も返す必要はないとされました。
現在においては、売春防止法で今回のような前借金契約は禁止されます。
【売春防止法9条】
売春をさせる目的で、前貸その他の方法により人に金品その他の財産上の利益を供与した者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
さらに労働基準法では、強制労働を禁止したり、前借金と賃金との相殺を禁止したり、労働契約に付随する貯蓄契約をさせ、また貯蓄金を管理する契約を禁止したりしています。
【労働基準法5条】
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
【労働基準法17条】
使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。
【労働基準法18条1項】
使用者は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない。
アニメから歴史的背景を学び、現在の法システムを考えることも非常に意義があると思います。
では、今日はこの辺で、また。