大村野上事件
こんにちは。
日本では、従業員を簡単にクビにできないという話を聞いたことがあると思います。とくに企業の業績が悪化したときに、人員の整理ができるのかどうか、また実際にどのような手続きがとられているのかについては、少なからず関心があるでしょう。
今日はこの点を考える上で、リーディングケースとなった大村野上事件(長崎地裁大村支部判昭和50年12月24日労働判例242号14頁)を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
肌着やパジャマなどを製造・販売をしていた大村野上株式会社は、不況により注文数が減少したことにより、浜田房子を含む29人の労働者を指名解雇しました。このとき、解雇を回避する努力をしないまま強行した解雇が不当であるとして、浜田房子は、解雇の無効を主張し、従業員の地位の保全を求めて仮処分を申請しました。
2 浜田房子の主張
会社は、いつもどおり出勤した全従業員を大村工場の社員食堂に集めて朝礼を行なっていました。そこで会社代表者が繊維業界の不況と人員整理の必要性について大まかな説明をし、次いで工場長が同じく不況が深刻なことと人員整理を実施するので、これからカウンセリングを行い、その席でいわれたことは口外しないようにと話していました。その後、全従業員と一人ずつ面接をし、リストアップされていた29名の従業員に対しては具体的な理由が示されないまま、その場で解雇通告がなされ、この29名以外の従業員に対しては、「今後も頑張ってくれるように」といった趣旨のことを話していました。
しかし、会社の従業員数は約200名となったものの、その後も結婚や出産等の理由で30名以上の任意退職者があったことから、かえって人手不足となり、今も職業安定所を通じて求人を募集しています。これは極めてずさんな整理解雇なのではないでしょうか。
3 大村野上株式会社の主張
解雇の対象として、浜田氏らを選んだのは、共稼ぎであり解雇によって直ちに生活が不可能になるおそれがないこと、作業能力が著しく劣ること、上司や同僚との協調性に欠けるからである。整理解雇には問題はない。
4 長崎地方裁判所大村支部の判決
余剰人員の整理を目的とするいわゆる整理解雇は、一旦労働者が労働契約によって取得した従業員たる地位を、労働者の責に帰すべからざる理由によって一方的に失わせるものであって、その結果は賃金のみによって生存を維持している労働者およびその家族の生活を根底から破壊し、しかも不況下であればある程労働者の再就職は困難で、解雇が労働者に及ぼす影響は更に甚大なものとなるのであるから、使用者が整理解雇をするに当っては、労働契約上の信義則より導かれる一定の制約に服するものと解するのが相当である。
大村野上による解雇については、一体何名の人員整理が必要であったか不明である上、解雇後に任意退職者が出たことで人手不足になり労働者の新規募集・採用を行っていることなどからすれば、差し迫った人員削減の必要性があったとは認められない。仮に、人員削減の必要性が認められたとしても、親会社への配置転換や一時帰休、希望退職募集等の努力を全くしていない。また、労働者側と人員整理の必要性等について協議をすることなく、解雇当日の朝礼の席上で人員整理についての簡単な説明をして、浜田房子らにその場で抜き打ち的に解雇を通告している。このような整理解雇は極めてずさんな人員計画から安易に指名解雇という結論を導いたものであるので、解雇権の濫用として無効といわなければならない。
そうすると、浜田房子は依然として大村野上の従業員たる地位を保有しているので、大村野上には平均賃金相当額の支払いを命じる。
5 整理解雇のための4つの条件
今回の事件は、整理解雇のための4つの条件を示した最初の判決です。
第一に、解雇を行わなければ企業の維持存続が危ぶまれるほど差し迫った必要性があること、第二に従業員の配置転換、一時帰休、希望退職募集などの労働者にとって解雇より苦痛の少ない方策によって余剰労働力を吸収する努力がなされたこと、第三に労働組合ないし労働者(代表)に対し事態を説明して了解を求め、人員整理の時期、規模、方法について労働者側の納得が得られるよう努力したこと、第四に整理基準及びそれに基づく人選の仕方が客観的・合理的であること、です。
他にも同様の判決が数多くあるために、日本では理由もなく「おまえはクビだ!」という一方的な解雇は難しく、整理解雇をする企業側にも、最大限の努力が求められていることがわかりますね。
では、今日はこの辺で、また。
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