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明石歩道橋事故事件

こんにちは。

 梨泰院と聞くと、NETFLIXの大ヒット韓国ドラマの「梨泰院クラス」と、梨泰院のハロウィン圧死事故を思い出します。

 過去、日本でも人混みから圧死事故が起きたことがあります。一体法律上どのようなことが問題となったのかを考える上で、「明石歩道橋事件」(最判平成28年7月12日ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 2001年7月20日、明石市大蔵海岸で「第32回明石市民夏まつり花火大会」が開催されていました。開催2日目の20時30分頃、JR朝霧駅南側の歩道橋で異常な混雑となり全身を圧迫されるという事態が発生しました。これにより、小学生以下の児童9名と70代の女性2名が死亡し、その他183名が負傷しました。遺族は、明石市・兵庫県警察・警備会社のニシカシに対して民事訴訟を提起し、神戸地裁は被告らに対して約5億6800万円の損害賠償を命じました。

 さらに、神戸地方検察庁は、兵庫県警察による計画策定と警備に不備があったとして、明石警察署と明石市の職員・ニシカシの担当者ら5人を起訴し、兵庫県警察の警察官1名、ニシカシの社長に禁固2年6カ月の実刑、明石市職員3名に禁固2年6カ月、執行猶予5年の有罪判決が確定しました。

 さらに検察審査会が明石警察署の副署長に対して起訴議決を行い、副署長が強制起訴されました。

2 検察側の主張

 会場の大蔵海岸とJR朝霧駅との間には国道2号線が通っており、歩道橋を通る以外のアクセスに不便があったことから、歩道橋の近くに180店の夜店が配置されていた。すると、歩道橋で駅から会場に向かう人の流れと、会場から駅に向かう人の流れが衝突し、大混雑が発生したのだ。そもそも、この花火大会にあたり、明石市と兵庫県警察本部、警備会社ニシカシとの間の協議が不十分で、7カ月前のカウントダウン花火大会でも負傷者が出ていたのに、その教訓が活かされていなかった。しかも、兵庫県警察は暴走族対策を重視して夜店に292名の警備要員を配置させ、雑踏警備対策には36名しか配置していなかったじゃないか。これは明らかに副署長に過失があり、現場で指揮していた地域官と同じように、副署長にも業務上過失致死傷罪の共同正犯が成立するはずだ。

3 副署長の主張

 計画段階では歩道橋周辺に警察官を配置し、必要とあれば機動隊などを投入できる権限を現場の指揮官だった明石署地域官に与えており、事故防止に必要な措置は講じていたので、私に注意義務はなかった。また、そもそもこのような事故が起こることを予見できなかった。たとえ計画段階に過失があったとしても、現場の地域官が適切に職務を行っていれば事故は発生しなかった。現場からの適切な報告もなかったので、私に責任はない。

4 最高裁判所の決定

 明石警察署の職制及び職務執行状況等に照らせば、警察署地域官が警備計画の策定の第一次的責任者ないし現地警備本部の指揮官という立場にあったのに対し、被告人は、副署長ないし署警備本部の警備副本部長として、署長が同警察署の組織全体を指揮監督するのを補佐する立場にあったもので、地域官及び被告人がそれぞれ分担する役割は基本的に異なっていた。今回の事故発生の防止のために要求され得る行為も、地域官については、事故当日午後8時頃の時点では、配下の警察官を指揮するとともに、署長を介し又は自ら直接機動隊の出動を要請して、歩道橋内への流入規制等を実施すること、警備計画の策定段階では、自ら又は配下警察官を指揮して本件警備計画を適切に策定することであったのに対し、被告人については、各時点を通じて、基本的には署長に進言することなどにより、地域官らに対する指揮監督が適切に行われるよう補佐することであったといえ、今回の事故を回避するために両者が負うべき具体的注意義務が共同のものであったということはできない。被告人につき、地域官との業務上過失致死傷罪の共同正犯が成立する余地はないというべきである。
 よって、原判決が被告人を免訴としたことは正当であり、上告を棄却する。

5 初めての強制起訴

 今回のケースで裁判所は、花火大会で歩道橋に多数の人が集まり折り重なって死傷者が発生した事故について、すでに死亡している警察署長を補佐する立場にあった副署長には、分担する役割や事故発生防止のために要求される行為が異なっていることから、警察署地域官との業務上過失致死傷罪の共同正犯は成立しないとしました。

 この事件は、検察審査会法が改正されて初めての強制起訴が適用されたことや、日本将棋連盟から、テレビ報道に対して「将棋倒し」という表現を使わないで欲しいという要望があったことも注目されました。悲しい事故がなくなることを願ってやみません。

では、今日はこの辺で、また。


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