引揚者更生生活協同連盟事件
こんにちは。
今日は、権利能力なき社団に土地の賃借権が帰属するのかどうかが問題となった最判昭和39年10月15日を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
昭和21年、戦後に、ソ連や中国などからの引揚者の相互の協力により生活の維持安定並びに厚生を図ることを目的として設立された社団法人引揚者更生生活協同連盟の一支部として、杉並支部が区内で活動していました。杉並支部は、中田正義からマーケットの敷地を賃借し、そこに建物を建設して構成員に使用させていました。その後、マーケットの全面改築をする際に、そこで店舗を経営していた構成員の島崎静馬らを退去させようとしましたが、島崎がこれに不満を抱き、杉並支部を脱退した上で店舗の経営を続けていました。その後、杉並支部の構成員らが新生興業株式会社を設立し、杉並支部から借地権を承継したとして、島崎に土地の明渡しを求めて提訴しました。
2 最高裁判所の判決
第一審は、引揚者更生生活協同連盟杉並支部が独自の定款を有しないことを理由にその権利主体性を否定して訴えを退けましたが、控訴審は第一審を取り消して、法人格は有しないが社会生活上独立した組織なので、杉並支部がその名前で賃借権などを取得できるとして、杉並支部の訴えを認容しました。最高裁は次のような理由で、島崎らの上告を棄却しました。
論旨は、要するに、原判決が独自の定款をもたない引揚者更生生活協同連盟杉並支部をもつて法人に非ざる社団であって権利義務の主体たりうるもの とし、本件土地の借地権者であると判断したのは、法令の解釈を誤り自由心証を濫用したものである、というに帰着する。
法人格を有しない社団すなわち権利能力のない社団については、民訴46条がこれについて規定するほか実定法上何ら明文がないけれども、権利能力のない社団といいうるためには、団体としての組織をそなえ、そこには多数決の原則が行なわれ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、しかしてその組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならないのである。しかして、このような権利能力のない社団の資産は構成員に総有的に帰属する。そして権利能力のない社団は「権利能力のない」社団でありながら、その代表者によってその社団の名において構成員全体のため権利を取得し、義務を負担するのであるが、社団の名において行なわれるのは、一々すべての構成員の氏名を列挙することの煩を避けるために外ならない。
本件において、原審がいわゆる杉並支部の実体について確定した事実関係は、次 のとおりである。
杉並支部は、昭和21年7月頃社団法人引揚者更生生活協同連盟の支部名義で、特に引揚者の更生に必要な各種の経済的行為をする目的のもとに、杉並区内に居住する引揚者によって結成されたものであるが、これを組織する構成員やその行なう事業もおおむね本部のそれとは別個のものであって、独自の存在と活動をしていたものである。すなわち、杉並支部の主たる事業はマーケットの設置と運営であり、右マーケットに店舗を有する者は、本部と関係なく、杉並支部の構成員であり、従って右店舗所有者の異動すなわち構成員の異動があつたときは支部の承認が行なわれ、構成員の変更にも拘らず支部は同一性を維持しつつ存続したのである。
杉並支部は、右マーケットの維持のほか、バザーの開催、物資の配給、日用品交換斡旋等の事業を行ない、その会員、役員、内部における意思決定、外部に対する代表、その他の業務執行等に関する定めとしては、すべて社団法人たる前記本部の定款と全く同旨の規約を定めていた。すなわち、杉並支部は、その事務所を東京都杉並区におき、「海外ヨリ終戦後引揚タル一般人ニシテ会費一口20円以上50口千円マデヲ一時ニ払込ミタル者」(正会員)と「正会員 ニ準ズル者ニシテ聯盟ノ趣旨並ニ目的ニ賛成シ正会員ト同率ノ会費ヲ払込ミタル者」 (特別会員)とをもって組織し、その意思決定は総会の決議によることとし、代表者としては総会が過半数の議決をもつて選任する支部長一名を置き、その他の役員として副支部長、理事等の定めがあった。 原審が適法に確定した叙上の事実関係によれば、いわゆる杉並支部は、支部という名称を有し、その規約は前記本部の定款と全く同旨のものであつたが、しかし、それ自体の組織を有し、そこには多数決の原則が行なわれ構成員の変更に拘らず存続をつづけ、前記の本部とは異なる独立の存在を有する権利能力のない社団としての実体をそなえていたものと認められるのである。従って、中田正義と右権利能力のない社団である杉並支部の代表者との間で締結された本件土地賃貸借契約により、いわゆる杉並支部の構成員全体は杉並支部の名の下に本件土地の賃借権を取得したものというべく、右と同趣旨の原判決は正当である。
よって、島崎氏の上告を棄却する。
3 借地権が社団の財産と認められる
今回のケースで裁判所は、権利能力なき社団が成立するためには、団体としての組織をそなえ、多数決の原則が行なわれ、構成員の変更にかかわらず団体が存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定していることを要し、権利能力なき社団がその名においてその代表者により取得した資産は、構成員に総有的に帰属する、としました。
訴訟の当事者となっている株式会社に賃借権が認められるためにも、権利能力なき社団に賃借権が認められる必要があったと考えられますね。
では、今日はこの辺で、また。