浦安町鉄杭撤去事件
こんにちは。
ヨットハーバーを見かけることがあるのですが、係留場所としては陸置きというものがあり、クレーンで上げ下ろしが必要となりますが、船底にフジツボが付着しないといったメリットがあることを知りましたね。
今日は、ヨットハーバーの鉄杭が問題となった「浦安町鉄杭撤去」(最判平成3年3月8日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
浦安町にある河川に鉄杭100本が無許可で設置され、漁船の航行が非常に危険な状況にありました。しかし、河川の鉄杭を撤去できる権限は千葉県知事にあり、浦安町の町長が無許可施設を撤去するためには、漁港管理規定を制定しておく必要がありましたが、それを制定していませんでした。そのため浦安町は、千葉県の出先機関である建設事務所を通じて、打設者であるヨット係留施設サンライズクラブ代表者の池内氏に撤去を要請した。しかし、鉄杭が撤去される様子がなかったことから、浦安町の町長が町費を使って鉄杭を強制撤去しました。これに対して、住民の1人が公金の支出が違法であるとして、浦安町長らに対して訴えを提起しました。
2 住民側の主張
そもそも、浦安町が漁港管理規定をおいていなかったことに問題がある。以前から、適切な措置を取っていれば、こんな鉄杭を打って、ヨット施設を作る人も出てこなかったはずだ。しかも、千葉県の出先機関に任せただけで、サンライズクラブの代表者と直接交渉もしていなかったじゃないか。浦安町の貴重なお金を勝手に使って、撤去業者を雇い、職員に時間外手当を払ったりするなど、税金の無駄遣いも甚だしい。町長は浦安町にその損害を賠償すべきだ。
3 浦安町長の主張
鉄杭が全長750mにわたって打ち込まれており、船舶の航行可能な水路は、水深の浅い左岸側だけとなっており、照明設備もなく、特に夜間及び干潮時に航行する船舶にとって非常に危険な状況が生じていました。私どもが撤去を申し入れましたが一向に聞き入れられなかったので、住民の安全を守るためにやむなく行政代執行として工事業者に発注して、物理的な撤去を行いました。これは緊急の事態に対処するためにとったやむを得ない措置で、民法720条1項に「他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない」とあり、その2項に「他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合」について720条1項を使い回しをするとあるので、私は損害賠償責任を負わなくていいはずです。
4 最高裁判所の判決
浦安町は、浦安漁港の区域内の水域における障害を除去してその利用を確保し、さらに地方公共の秩序を維持し、住民及び滞在者の安全を保持するという任務を負っているところ、船舶航行の安全を図り、住民の危難を防止するため、その存置の許されないことが明白であって、撤去の強行によってもその財産的価値がほとんど損なわれないものと解される鉄杭をその責任において強行的に撤去したものであり、鉄杭撤去が強行されなかったとすれば、鉄杭による航行船舶の事故及びそれによる住民の危難が生じないとは必ずしも保障し難い状況にあったこと、その事故及び危難が生じた場合の不都合、損失を考慮すれば、むしろ町長の鉄杭撤去の強行はやむを得ない適切な措置であったと評価すべきである。
そうすると、町長が鉄杭撤去を強行したことは、漁港法及び行政代執行法上適法と認めることのできないものであるが、緊急の事態に対処するためにとられたやむを得ない措置であり、民法720条の法意に照らしても、浦安町としては、町長が撤去に直接要した費用を浦安町の経費として支出したことを容認すべきものであって、請負契約に基づく公金支出については、その違法性を肯認することはできず、町長が浦安町に対し損害賠償責任を負うものとすることはできないといわなければならない。
よって、住民側の請求を棄却する。
5 緊急避難
今回のケースで裁判所は、浦安町長が漁港法に基づかずに鉄杭を撤去する行為を違法と認定しましたが、公金を支出したことについてはやむを得ないものであるとして、町長は浦安町に損害賠償責任を負わないとしました。
行政は法律に基づいて行動するという原則があるということを確認した上で、緊急事態に対処するためにやむを得ず行った行政上の強制執行について適法とされることもあるということを知ってもらえると幸いです。
では、今日はこの辺で、また。
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