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和歌山毒入りカレー報道事件

こんにちは。

 カレーの専門家やラーメンの専門家が数多くいる中で、カレーラーメンの専門家ぶって、おいしい店を知っていることが密かな自慢でした。

 しかし、すでに新潟県三条市がカレーラーメンで70年の歴史を誇っていることを知って、速攻で専門家ぶることをやめた松下です。

 さて今日は、法廷内の肖像をめぐって問題となった和歌山毒入りカレー報道事件(最判平成17年11月10日民集59巻9号2428頁)を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 1998年7月25日夕方、和歌山県和歌山市園部で行われた夏祭りに提供されていたカレーライスに毒物が混入され、カレーを食べた67人が急性ヒ素中毒になり、うち4人が死亡した事件が発生しました。この事件で殺人罪などに問われた被告人林真須美は、後の裁判で死刑判決を受けました。被告人林に対する報道が過熱する中で、週刊誌「フォーカス」は、1998年11月に和歌山地裁の法廷内で隠し撮りした被告人林の写真を1999年5月26日号「法廷を嘲笑う林真須美の毒カレー初公判ーこの『怪物』を裁けるのか」に掲載していました。このことを知った被告人林は、肖像権を侵害しているとして民法709条違反を理由に出版元の新潮社を相手として訴えを起こしました。すると、新潮社は1999年8月25日号で、「本誌を訴えた林真須美殿へー絵ならどうなる?」というタイトルで、法廷での姿を描いたイラスト3枚(そのうち1点は被告人林が手錠、腰縄により身体の拘束を受けている状態が描かれたものだった)を掲載しました。これについても被告人林は、肖像権侵害、名誉毀損又は侮辱を理由に、再度2200万円の慰謝料の支払を求めて訴えを起こしたのです。

2 被告人林真須美の主張

 みだりに自己の容貌を撮影され、これを公表されない人格的利益は、刑事事件の被疑者や被告人であっても法的に保護されるべきです。これはイラストであったとしても同じだと思います。とくに、手錠や腰縄で身体の拘束を受けたイラストで、私の肖像権を侵害したり、侮辱をしたり、名誉を毀損する行為は、民法709条の不法行為にあたるので、慰謝料を払ってほしいです。

3 新潮社の主張

 報道行為が公共の利害に関するもので、専ら公益を図る目的があり、取材や報道の手段が相当であれば、肖像権を侵害しても問題がないはずだ。また、日本では一般的に、法廷内で被告人の様子を報道するためにその容ぼうをイラスト画にして新聞や雑誌等に掲載することは社会的に認められてきたので、被告人の人格的利益を侵害していないと思います。

4 最高裁判所の判断

 最高裁判所の裁判長は「法廷内の隠し撮り写真は違法であり、イラスト3枚のうち、手錠・腰縄姿の1枚も違法である。しかし、それ以外のイラスト2点は違法ではない。よって、新潮社は、被告人林真須美に対して220万円を支払え」と判決を下しました。

5 写真とイラスト掲載の受忍限度

 最高裁は、法廷内において無断で容ぼうを撮影・公表する行為が違法となるかは、受忍限度を超えるかどうかで判断しています。同様に、法廷内のイラストを公表する行為も、社会生活上受忍すべき限度を超えていた場合には人格権侵害となり、不法行為による損害賠償が可能であるとしています。

 今後も、受忍限度(どこまで我慢できるか)の内容を明確にするために、裁判の積み重ねや分析が必要になってきますので、続けていきたいと思います。

では、今日はこの辺で、また。


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