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歯科医師電気容量事件

こんにちは。

 今日は、歯科医が開業のためにマンションを購入しようとしたが、途中で契約をやめたことが問題となった最判昭和59年9月18日を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 歯科医師の池田忠雄は、4階建ての大野ハイツの建設を計画している角谷義政から、102号室の購入に向けての話を聞いていました。このとき、池田は検討する時間が欲しいと伝えて、1カ月後に10万円を支払っていました。その後、池田は間取りスペースについて要望を出したり、レイアウト図面なども交付していました。また池田が角谷に「歯科医院を営むために大量の電気が必要となるが、電気容量はどうなっているのか」と問い合わせたことがあったので、角谷は池田の意向を確かめないまま、工事業者に受水槽を変電室に変更するよう指示し、池田に費用500万円の上乗せを打診しましたが、とくに異議が述べられませんでした。
 ところが池田は毎月のローン支払い額が多額になることを理由に、買取を断ってしまいました。そのため角谷は、池田に対して変更工事に関する損害賠償を求めて提訴しました。

2 原審の判断

 取引を開始し契約準備段階に入ったものは、一般市民間における関係とは異り、信義則の支配する緊密な関係にたつのであるから、のちに契約が締結されたか否かを問わず、相互に相手方の人格、財産を害しない信義則上の義務を負うものというべきで、これに違反して相手方に損害を及ぼしたときは、契約締結に至らない場合でも契約責任としての損害賠償義務を認めるのが相当である。
 池田氏は、昭和54年11月から角谷氏との交渉に入り、昭和55年1月中旬頃既に基本的には本件物件が自己の希望する条件に適合しないとの結論に達していたにもかかわらず、その後電気容量が不足であることを指摘して角谷氏をして電気容量増加のための諸行為をさせ、その後も設計変更を容認する態度に出ていたのであるから、自らの都合で契約締結に至らなかった以上、右契約締結準備段階における行為により角谷氏に生じた損害を賠償すべきものと考える。

3 最高裁判所の判決

 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、池田氏の契約準備段階における信義則上の注意義務違反を理由とする損害賠償責任を肯定した原審の判断は、是認することができ、また、池田氏及び角谷氏双方の過失割合を各5割とした原審の判断に所論の違法があるとはいえない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づき原判決を論難するか、又は原審の裁量に属する過失割合の判断の不当をいうものにすぎず、採用することができない。 
 よって、池田氏の上告を棄却する。

4 お互いに損害を与えないように信義則上の注意義務がある

 今回のケースで裁判所は、マンシヨンの購入希望者において、その売却予定者と売買交渉に入り、その交渉過程で歯科医院とするためのスペースについて注文を出したり、レイアウト図を交付するなどしたうえ、電気容量の不足を指摘し、売却予定者が容量増加のための設計変更及び施工をすることを容認しながら、交渉開始6か月後に自らの都合により契約を結ぶに至らなかつたなどの事情があるときは、購入希望者は、当該契約の準備段階における信義則上の注意義務に違反したものとして、売却予定者が右設計変更及び施工をしたために被つた損害を賠償する責任を負う、としました。
 契約締結に向けて話が進んでいく段階で、たとえ契約が締結されていないとしても、注文する側と注文を受ける側との間には、信義則の支配する緊密な関係が生じているとされていることから、お互いに相手に損害を与えないようにする注意義務があるとされていますので、注意が必要でしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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