積水化学工業スパイ事件
こんにちは。
今日は、積水化学が持つスマホ関連技術が中国の企業に漏洩していたことが発覚した大阪地判令和3年8月18日を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
積水化学工業の従業員は、営業秘密にあたる電子材料の「導電性微粒子」の製造工程に関する情報技術を、ビジネスで用いされるSNSのLinkedInで接触してきた潮州三環グループの社員にメールで漏洩していました。積水化学は従業員を懲戒解雇した上で、大阪府警察に刑事告訴し、検察官に送致されました。
2 大阪地方裁判所の判決
主文:被告人を懲役2年及び罰金100万円に処する。 その罰金を完納することができないときは、金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。この裁判が確定した日から4年間その懲役刑の執行を猶予する。
被告人は、合成樹脂製品の製造及び売買等を目的とする積水化学工業株式会社の従業員として、同社工場技術開発部に勤務し、導電性微粒子に関する設備機器及び同社が管理するサーバコンピュータにアクセス可能なパーソナルコンピュータが設置されている関係者以外立入禁止の前記工場並びに同社研究所への立入りを許可され、かつ、同社の営業秘密である導電性微粒子の製造情報が蔵置された前記サーバコンピュータへのアクセスを許可されるなどして、同社の営業秘密を示されていたものであるが、不正の利益を得る目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、平成30 年8月7日、前記工場事務所において、被告人が使用するパーソナルコンピュータから、同社の営業秘密である被告人作成のファイルデータを、中華人民共和国の潮州三環有限公司の担当者に不正の利益を得る目的で同国において被告人からの開示によって同ファイルデータを取得して使用をする目的があることの情を知って、前記担当者に対し、送信して開示した。
本件において、被告人が領得ないし開示した営業秘密は、被害会社が高いシェアを持つ製品に係る特殊かつ独自のものであり、これが流出した場合、被害会社が製造等している製品と同程度の品質のものが開発され、被害会社のシェアが奪われ、その営む事業に大きな影響を与えるおそれがあったものである。 被害会社は、秘密情報管理規則を定めて情報漏えいの防止を図っている上、当該製品の製造設備の設置場所の出入口にセキュリティロックを設置したり、当該製品の製造に係るデータが保存された共有フォルダについてアクセス制限をかけたりするなど、本件営業秘密について厳重な管理を行っていた。 にもかかわらず、被告人は、従業員として順守すべき秘密保持の任務に背き、本件各犯行に及んだ。また、本件各犯行は一時的な犯意に基づくものではなく、被告人は、中華人民共和国内の企業の勧誘を受けて、同企業が進める当該製品の開発に継続的に協力する中、その一環として本件各犯行を敢行したものである。営業秘密の領得・開示という犯罪類型の中で、本件は悪質な部類に属するというべきである。 被告人は、相手方企業との間で、当該製品の開発に協力する見返りとして、被害会社での新製品開発に有用な技術に関する情報等を教示してもらうことなどを約束していた。そのような情報等を取得することが被害会社への貢献につながるという側面があったのだとしても、そのために重要な営業秘密を相手方企業に渡し、被害会社に看過できない損害のおそれを生じさせることが許容されないのは当然である。
以上によれば、被告人の刑事責任を軽く見ることはできない。もっとも、本件各犯行の結果、被害会社に具体的な損害が発生したことを認めるに足る証拠はないことに照らすと、これまで前科のない被告人につき、懲役刑の執行を猶予する余地がないとはいえない。もっとも、営業秘密が国外へと流出するリスクが高まる中、営業秘密が国外に流出した場合の悪影響を考慮し、国外流出に対して強い抑止力を働かせる必要があるとの観点から、国外流出に係る営業秘密侵害罪については罰金刑の上限額が引き上げられていることに鑑みれば、被告人が本件各犯行によって経済的な利益を得たとは認められないことを踏まえても、一般予防の見地から、被告人に対しては、罰金刑を併科するのが相当である。その上で、被告人が事実を認めた上で、反省の態度を示していること、母親が情状証人として出廷して被告人のために証言したことなどの事情も考慮し、懲役刑については主文のとおりの刑期を量定し、また、主文のとおりの額の罰金刑の併科をもって臨むのが相当であると認め、懲役刑についてはその執行を猶予することとしたものである。
3 日本の技術者の流出のリスク
今回のケースで裁判所は、積水化学工業の元従業員が、自身が使用するパソコンから営業秘密である導電性微粒子に関するファイルデータを潮州三環グループの担当者に、不正の利益を得る目的で中国においてファイルデータを使用する目的があることを知りながら、送信して開示したとして、不正競争防止法違反を理由に、「懲役 2 年及び罰金 100 万円、 執行猶予 4 年」の判決を言い渡しました。
この元従業員がファーウェイに再就職していたことも話題となり、今後も日本の技術者の流出リスクについて対策を続けていく必要があるでしょうね。
では、今日はこの辺で、また。