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大分外国人生活保護受給事件

こんにちは。

 今日は永住的外国人による生活保護の受給が問題となった最判平成26年7月18日(LEX DB 25504546)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 日本で生まれ、日本で教育を受け、結婚をした大分市在住で、日本の永住資格を持つ中国籍の女性が、生活保護申請をしたところ、大分市福祉事務所長からその申請が却下されました。そのため、女性は大分市を相手に生活保護申請却下の取消を求めて提訴しました。

2 最高裁判所の判決

 大分地裁は女性の訴えを却下しましたが、福岡高裁は「一定範囲の外国人は、日本人と同様の待遇を受ける地位が法的に保護される」として、大分地裁の却下決定を取り消しました。最高裁は、次のような理由で福岡高裁の判決を破棄し、女性の控訴を棄却しました。

 旧生活保護法は、1条において、「この法律は、生活の保護を要する状態にある者の生活を、国が差別的又は優先的な取扱をなすことなく平等に保護して、社会の福祉を増進することを目的とする。」と規定していた。
 現行の生活保護法は、1条において、「この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。」と規定し、2条において、「すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護を、無差別平等に受けることができる。」と規定している。
 昭和29年5月8日、厚生省において、各都道府県知事に宛てて「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」と題する通知が発出され、以後、本件通知に基づいて外国人に対する生活保護の措置が行われている。
 本件通知は、外国人は生活保護法の適用対象とはならないとしつつ、当分の間、生活に困窮する外国人に対しては日本国民に対する生活保護の決定実施の取扱いに準じて必要と認める保護を行うものとし、その手続については、当該外国人が要保護状態にあると認められる場合の保護実施機関から都道府県知事への報告、当該外国人がその属する国の代表部等から必要な保護等を受けることができないことの都道府県知事による確認等を除けば、日本国民と同様の手続によるものとしている。
 平成2年10月、厚生省において、本件通知に基づく生活保護の対象となる外国人の範囲について、本来最低生活保障と自立助長を趣旨とする生活保護が予定する対象者は自立可能な者でなければならないという見地からは外国人のうち永住的外国人のみが生活保護の措置の対象となるべきであるとして、出入国管理及び難民認定法別表第2記載の外国人(以下「永住的外国人」という。)に限定する旨の取扱いの方針が示された。
 昭和56年3月、難民の地位に関する条約及び難民の地位に関する議定書に我が国が留保を付することなく加入する旨の閣議決定がされたが、難民条約23条が「締約国は、合法的にその領域内に滞在する難民に対し、公的扶助及び公的援助に関し、自国民に与える待遇と同一の待遇を与える。」と定めていたことから、生活保護法のほか国民年金法や児童扶養手当法等に規定されていた国籍要件の改正の要否が問題となり、「難民の地位に関する条約等への加入に伴う出入国管理令その他関係法律の整備に関する法律」等により、国民年金法や児童扶養手当法等については国籍要件を撤廃する旨の改正がされたものの、生活保護法については同様の改正はされなかった。
 難民条約等への加入に際して条約及び関連法案に関する審査のために設置された衆議院法務委員会、同外務委員会及び同社会労働委員会の連合審査会において、昭和56年5月、政府委員は、生活保護に係る制度の発足以来、外国人についても実質的に自国民と同じ取扱いで生活保護の措置を実施し、予算上も自国民と同様の待遇をしているので、生活保護法の国籍要件を撤廃しなくても難民条約等への加入には支障がない旨の答弁をした。
 原審は、要旨次のとおり判断して、中国籍女性の本件却下処分の取消しを求める請求を認容した。
 難民条約等への加入及びこれに伴う国会審議を契機として、国が外国人に対する生活保護について一定の範囲で法的義務を負い、一定の範囲の外国人に対し日本国民に準じた生活保護法上の待遇を与えることを立法府と行政府が是認したものということができ、一定の範囲の外国人において上記待遇を受ける地位が法的に保護されることになったものである。また、生活保護の対象となる外国人の範囲を永住的外国人に限定したことは、これが生活保護法の制度趣旨を理由としていることからすれば、外国人に対する同法の準用を前提としたものとみるのが相当である。よって、一定の範囲の外国人も生活保護法の準用による法的保護の対象になるものと解するのが相当であり、永住的外国人である中国籍女性はその対象となるものというべきである。
 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 旧生活保護法は、その適用の対象につき「国民」であるか否かを区別していなかったのに対し、現行の生活保護法は、1条及び2条において、その適用の対象につき「国民」と定めたものであり、このように同法の適用の対象につき定めた上記各条にいう「国民」とは日本国民を意味するものであって、外国人はこれに含まれないものと解される。
 そして、現行の生活保護法が制定された後、現在に至るまでの間、同法の適用を受ける者の範囲を一定の範囲の外国人に拡大するような法改正は行われておらず、同法上の保護に関する規定を一定の範囲の外国人に準用する旨の法令も存在しない。
 したがって、生活保護法を始めとする現行法令上、生活保護法が一定の範囲の外国人に適用され又は準用されると解すべき根拠は見当たらない。
 また、本件通知は行政庁の通達であり、それに基づく行政措置として一定範囲の外国人に対して生活保護が事実上実施されてきたとしても、そのことによって、生活保護法1条及び2条の規定の改正等の立法措置を経ることなく、生活保護法が一定の範囲の外国人に適用され又は準用されるものとなると解する余地はなく、我が国が難民条約等に加入した際の経緯を勘案しても、本件通知を根拠として外国人が同法に基づく保護の対象となり得るものとは解されない。なお、本件通知は、その文言上も、生活に困窮する外国人に対し、生活保護法が適用されずその法律上の保護の対象とならないことを前提に、それとは別に事実上の保護を行う行政措置として、当分の間、日本国民に対する同法に基づく保護の決定実施と同様の手続により必要と認める保護を行うことを定めたものであることは明らかである。
 以上によれば、外国人は、行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得るにとどまり、生活保護法に基づく保護の対象となるものではなく、同法に基づく受給権を有しないものというべきである。 
 そうすると、本件却下処分は、生活保護法に基づく受給権を有しない者による申請を却下するものであって、適法である。
 以上と異なる原審の上記判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があり、原判決中大分市敗訴部分は破棄を免れない。そして、以上と同旨の見解に立って、中国籍女性の本件却下処分の取消しを求める請求は理由がないとしてこれを棄却した第1審判決は是認することができるから、上記部分に関する中国籍女性の控訴を棄却すべきである。

3 立法で解決すべき問題?

 今回のケースで裁判所は、日本に永住資格を持つ外国人による生活保護の申請却下処分について、生活保護の対象を一定の範囲の外国人に拡大するような法改正が行われておらず、保護の規定を外国人に準用する旨の法令も存在しないとして、外国人は生活保護法に基づく保護の対象とはならないとしました。
 ただし、人道上の観点から、生活保護法に基づかない行政措置により、永住的外国人を日本人に準じて生活保護の対象としているところもあり、引き続き現実の問題と法的に苦しい解釈について検討していく必要があるでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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