東海大学安楽死事件
こんにちは。
みなさんは、自分の死に方について考えたことがあるでしょうか。
どんな人にも平等に死が訪れますが、人生をどのように生きるかのを突き詰めると、自らを死に方を選ぶことができるのかという問題に行きつきます。実際に世界を見渡すと、安楽死に関する法律が成立している国があります。
もしかしたら、あなたの身近に起こるかもしれない終末医療の問題、とくに安楽死について考える上で、今日は「東海大学安楽死事件」(横浜地判平成7年3月28日判例タイムズ877号148頁)を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
会社員だった藤原さん(58歳)は、会社の健康診断で貧血と血小板の減少を指摘され、多発性骨髄腫の疑いで東海大学医学部付属病院に入院することになりました。大学病院の助手だった徳永医師が引き継いで藤原さんの治療にあたり、病名は家族にのみ告知されていました。その後、昏睡状態が続いていたことから、藤原さんの妻と長男は「もう1週間も寝ずに付き添ってきたので疲れました。もう治らないのなら治療をやめてほしいのです」、「これ以上父の苦しむ姿を見ていられないので苦しみから解放させて。楽にしてやってほしい」と迫りましたが、徳永医師がこれを拒むと「そんなことをおっしゃらずに、なんとか主人を眠らせてほしいんです」、「この病院ではなにひとつ家族の希望は聞いてもらえないんですか」と治療の中止を強く要望したため、徳永医師はしぶしぶカテーテルや点滴を外すなどして治療を中止しました(消極的安楽死)。しかしその後も、長男が「父のイビキを聞いているのがついらいんです。父を早く楽にしてくれませんか。今日中に家に連れて帰りたいです」と訴えました。徳永医師はイビキを止めるということは息を止めることだと説得するも、「父を早く楽に」の一点張りだったので、仕方なく徳永医師は鎮静剤を注射しましたが、息子には薬物についての説明はしていませんでした。
それでも患者の状態に変わりがなかったことから、息子は再びナースステーションに行き、徳永医師を呼び出して「先生は、何をやっているんですか。まだ息をしているじゃないですか。早く父を家に連れて帰りたい。どうしても今日中に家に連れて帰りたい。何とかしてください」と執拗に要望されたため、今度は塩化カリウムを投与して死に至らしめました(積極的安楽死)。
しかし翌日、病棟の医療スタッフの間で、徳永医師の行為が問題視され、懲罰委員会が開かれた後、徳永医師は病院側から懲戒免職をされた上、警察にも通報されました。また家族側も「命を絶つ薬なら投与を断っていた」と述べるなどして、横浜地検は徳永医師を殺人罪により起訴しました。
【刑法199条】
人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。
2 被告人の主張
「早く楽に」という家族の依頼は、本人の意思を代弁したと推定でき、穏やかな死を願って行った私の行為は、適法な安楽死にあたるはずだ。
また検察官は、殺人をそそのかした長男は起訴せずに、私のみを起訴したのであるが、そうした起訴は公正さを欠き違法と言うべきである。
【刑法202条】
人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、六月以上七年以下の懲役又は禁錮に処する。
3 横浜地方裁判所の判決
主文:被告人を懲役2年、執行猶予2年とする。患者の死期が迫っていたが、昏睡状態で意思表示ができず、また痛みも感じていなかったので安楽死としては許容されない。
4 安楽死が適法になるためには
今回のケースで、裁判所は(積極的)安楽死が許容されるために4つの条件を提示しました。
① 耐え難い肉体的苦痛があること
② 死が避けられずその死期が迫っていること
③ 肉体的苦痛を除去・緩和するための措置をつくし他に代替手段がないこと
④ 生命の短縮を承諾ことについて患者から明示的に意思表示があること
ちなみに、長男の「早く楽にしてほしい」という言葉は「安らかな自然死」を望むという言葉であって、医師と家族との意思疎通が不十分であったとも認定されています。
安楽死について深く考えるきっかけになれば、幸いです。
では、今日はこの辺で、また。