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親族会の同意書偽造事件

こんにちは。

 今日は、法定代理による無権代理について表見代理が成立するかどうかが問題となった大連判昭和17年5月20日民集21巻571号を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 未成年の小泉新七は、京都電燈株式会社の株券を所有していました。新七の母の小泉のはは、この株券の売却を治三郎に依頼した際に、親族会の同意書を偽装して新七名義の白紙委任状を作成して渡していました。その後、新七の株式は、第一證券に売却され、さらに転々と藤橋九市に売却されました。この事実を知った小泉新七は、藤橋九市に株券の返還を求めて提訴しました。

2 大審院連合部の判決

 原判決は未成年者たる小泉新七の親権者母のはが、新七を代理し親族会の同意を得えないでした法律行為に関しては、民法110条の表見代理の規定を適用しないと解釈するのが相当であるとして、藤橋九市の抗弁を排斥した。しかし、民法110条の規定は取引の安全を計り、相手方の利益を保護しようとするものであるので、法定代理にもその適用があり、未成年者のためにその親権者たる母が親族会の同意を得ないで行った法律行為についても、その相手方が親族会の同意があったと信ずべき正当の事由があれば、本人たる未成年者はその行為につき、責任を負わなければならない。これに抵触する従来の判例は、変更すべきものとする。
 もし、受任者である治三郎への委任につき、親族会の同意があったと信ずべき正当の事由があるときは、民法110条の規定により、新七はその責任を負い、委任を取り消すことができない。しからば、原判決は民法110条の解釈を誤っているため、必要な審理が行われておらず、論旨には理由がある。藤橋敗訴の部分は破棄を免れない。
 よって、原判決中、藤橋九市の敗訴部分を破棄し、本件を京都地方裁判所に差し戻す。

3 法定代理と表見代理

 今回のケースで裁判所は、民法110条の表見代理の規定は、親権者の母が親族会の同意を得ないで行った行為についても適用があるとしました。
 ちなみに、戦後の家族法改正により、3人以上の親族が裁判所に召集されて母の代理行為に同意を与えたりする親族会制度は廃止されました。それでも、後見人が被後見人に代わって借入や贈与、不動産の売買をする際に、後見監督人の同意が必要となる(民法864条)といった類似の事例が発生する可能性がありますので、この判決が参考となる可能性は高いでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。

【民法864条】
後見人が、被後見人に代わって営業若しくは第十三条第一項各号に掲げる行為をし、又は未成年被後見人がこれをすることに同意するには、後見監督人があるときは、その同意を得なければならない。ただし、同項第一号に掲げる元本の領収については、この限りでない。


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