Facebookメッセージ開示請求事件
こんにちは。
20年前はデジタル社会の最前線にいると自負していましたが、今日のデジタルトランスフォーメーションはスピードが速すぎで、水上スキーのように半分沈んで水を飲みながら、何とか必死に食らいついて毎日を生きている松下です。
さて今日は、デジタル遺品の相続をめぐって、ドイツで話題となった裁判を紹介してみたいと思います。
1.事件の概要
2012年12月、ベルリンの地下鉄で15歳の少女が電車に轢かれました。この事故の原因は不明なのですが、轢いた車両の運転手は、「少女が自殺するために飛び込んできたんだ。それで精神状態がおかしくなってしまった」と主張して、遺族に慰謝料を請求しました。これに対して遺族は、「娘が自殺をするはずない」と主張して、運転手に反論しました。
遺族は、娘の事故原因が自殺によるものではないことを証明するために、少女が死亡直前までにやりとしていたフェイスブックのダイレクトメッセージを調べることを思いつきました。ところが、娘のFacebookアカウントは、すでに追悼アカウントになっていて、内容が見れない状態になっていました。そこで遺族は、娘の死亡原因を明らかにするために、娘のアカウントへのアクセス請求権が相続人である遺族にあるとして、Facebookに対して訴えを提起しました。
2.Facebook側の主張
フェイスブック側は、少女の友達によって追悼アカウントの申請が行われていたので、追悼アカウントに移行させており、またアカウントは一身専属性、つまりその人のみが利用できるサービスなので、遺族であったとしても開示することはできないと主張しました。
3.下級裁判所の判決内容
第1審のベルリン地方裁判所(2015年12月17日判決)は、デジタル遺品を相続可能であるとして、遺族の意見を全面的に認めました。
これに対して第2審のベルリン高等裁判所(2017年5月31日判決)は、通信の秘密を重視して通信内容へのアクセスを禁止するとして、フェイスブック側の主張を支持しました。
4.ドイツ連邦通常裁判所(BGH)の判決
ドイツ国内の最上級裁判所にあたる連邦通常裁判所2018年7月12日判決(NJW2018, 3178)では、ソーシャル・ネットワークのアカント所有者が死亡したときには、そのアカウントのアクセス権はその所有者の相続人に移転する。そのため、アカウントやそこに蓄積された通信内容にアクセスすることも、死後の人格権、死者の通信の秘密、データ保護法上も問題とはならない。
その理由として、アカウントが財産的か、非財産的であるかどうかの区別ができず、またデジタルかアナログかの区別もされていないため、オンラインで管理されているメッセージも紙で残された手紙や日記と同じように、必要性があるときは、遺族が承継することができる道筋を残すべきだからとしました。
5.おわりに
今後も、デジタル遺産をめぐる裁判が急増していくことが予想されます。企業サービスを利用する際に締結している利用規約と現状の相続制度のどちらが優先されるかについては、まだまだこれからも解明していくべき部分が多いので、引き続き分析してみたいと思います。
では、また。