家賃滞納・無断転貸事件
こんにちは。
絶対にやってはいけない信頼関係を破壊する行動として、①余計なアドバイスをする、②相手に媚びすぎる、③他人の悪口を言う、とあり、すでに癖になっているので気をつけようと思いましたね。
さて今日は、賃貸人と賃借人との信頼関係が問題となった「家賃滞納事件」(最判昭和39年7月28日裁判所ウェブサイト)と「無断転貸事件」(最判昭和28年9月25日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。
1 家賃滞納事件
井上猛司氏は、水野福子氏から月額1200円の賃料で家屋を賃借していました。その後、水野氏は井上氏が家賃を滞納しているとして、9600円の支払いを催告したところ、井上氏は4800円を供託し、過去18年間にわたって家賃滞納したこともなく、自腹で2万9000円を払って屋根を修理していたので、もう少し待ってくれと反論しました。しかし、水野氏は、井上氏が賃料を払わなかったという債務不履行を理由に賃貸借契約を解除し、家屋からの退去を求めて提訴しました。
2 最判昭和39年
井上氏は、昭和16年3月に水野福子の先代から、家屋賃借して以来、これに居住しているもので、今回の催告に至るまで賃料滞納の事実がなかったこと、昭和25年の台風で家屋が破損した際に井上氏の修繕要求にもかかわらず水野氏側で修繕をしなかったので、昭和29年頃2万9000円を支出して屋根のふきかえをしたが、その修繕費について本訴が提起されるまで償還を求めなかったこと、井上氏はその修繕費の償還を受けるまでは滞納賃料債務の支払いを拒むことができ、従って昭和34年5月分から同年8月分までの延滞賃料を催告期間内に支払わなくても解除の効果は生じないものと考えていたので、催告期間経過後の同年11月9日に延滞賃料弁済のためとして4800円の供託をしたことを確定したうえ、催告に不当違法の点があったし、井上氏が催告につき延滞賃料の支払もしくは修繕費償還請求権をもってする相殺をなす等の措置をとらなかったことは遺憾であるが、その事情のもとでは法律的知識に乏しい井上氏がその措置に出なかったことも一応無理からぬところであり、その事実関係に照らせば、井上氏にはいまだ賃貸借の基調である相互の信頼関係を破壊するに至る程度の不誠意があると断定することはできないとして、水野氏の今回の解除権の行使を信義則に反し許されないと判断しているのであって、その判断は正当として是認するに足りる。
よって、水野福子氏の上告を棄却する。
3 無断転貸事件
昭和5年、静岡県において小林俊作は佐藤一から土地を借りて、建物と倉庫を建て、時田熊吉は小林氏からこの建物を賃借していましたが、昭和20年6月20日の空襲により、小林氏の建物と倉庫が消失してしまいました。そこで、時田氏は罹災都市借地借家臨時処理法3条の規定に基づいて、消失した建物の敷地の借地権譲渡を申し出て、小林氏の承諾を得てその借地権を取得し、再び建物を建てました。ところが、再建された建物が倉庫の跡地にまたがって建てられていたことから、佐藤氏から土地を取得した内野亀吉は、小林氏が土地を時田熊吉に又貸し、無断譲渡しているとして賃貸借契約を解除し、小林氏に対して建物を収去して土地の明渡しを求めて提訴しました。
4 最判昭和28年
元来民法612条は、賃貸借が当事者の個人的信頼を基礎とする継続的法律関係であることにかんがみ、賃借人は賃貸人の承諾がなければ第三者に賃借権を譲渡し又は転貸することを得ないものとすると同時に、賃借人がもし賃貸人の承諾なくして第三者をして賃借物の使用収益を為さしめたときは、賃貸借関係を継続するに堪えない背信的所為があったものとして、賃貸人において一方的に賃貸借関係を終止せしめ得ることを規定したものと解すべきである。したがって、賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をして賃借物の使用収益を為さしめた場合においても、賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合においては、同条の解除権は発生しないものと解するを相当とする。しからば、本件において、小林氏が時田熊吉に土地の使用を許した事情が元判示の通りである以上、小林氏の行為を以て賃貸借関係を継続するに堪えない著しい背信的行為となすに足らないことはもちろんであるから、内野氏の同条に基づく解除は無効というのほかなく、これと同趣旨に出でた原判決は相当である。
よって、内野氏の上告を棄却する。
5 信頼関係破壊の法理
今回のケースで裁判所は、賃貸借契約においてたとえ賃料の不払いがあったしても、お互いの信頼関係を破壊するほどの不誠意がないのであれば、賃貸借契約の解除をすることは信義則に反し許されないとし、また賃借人が賃貸人の承諾なく第三者に賃借物を使用させた場合であったとしても、賃借人の行為が賃貸人に対する背信的行為に当たらないのであれば賃貸借契約を解除できないとしました。
どのような場合に信頼関係が破壊されたのかをめぐっては、個別に検討する必要がありますので、法律の専門家に相談することが重要でしょうね。
では、今日はこの辺で、また。
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