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ホテル経営者火災転落事件

こんにちは。

 警察24時で警察官が犯人を取り押さえるシーンをドキドキしながら見ているのですが、ディスカバリーチャンネルの消防24時をみていると、消防官も一般人から暴行を受けることがあることから、普段から格闘技のトレーニングも欠かせないということを知って驚きましたね。

 さて今日は、ホテルの火災において消防隊員の救助活動に過失があったかどうかが問題となった「ホテル経営者火災転落事件」(東京地判平成30年1月22日判例タイムズ1466号223頁)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 長野県下高井郡山ノ内町でスキー場に隣接した竜王パークホテルを経営していた父が、シーズンオフに妻と子ども2人でホテルに寝泊まりしていたところ、午前3時40分頃に突然、布類を大量に保管するリネン室から出火し、父が「火事だ」と大声を上げて妻が飛び起きました。しかし、消防設備の不備と消防官による救助活動が遅れたことにより、父と母はホテルの5階の窓から転落してしまい、その結果、父は死亡し、妻が脊髄損傷などの後遺障害を負いました。そのため、妻と子らは、山ノ内町に対して、後遺障害の慰謝料や父の死亡に対する慰謝料など約4492万円の支払いを求めて提訴しました。

2 妻らの主張

 消防隊員らは、屋外からの三連はしごによる救助を試みていましたが、5階まで届きませんでした。もしも山ノ内消防署に「はしご自動車」や「空気式救助マット」の装備があれば、主人は助かり、私もこんなケガを負わなかったと思います。消防法には、管轄区域内に10棟以上の15m以上建築があれば、原則としてはしご自動車を配備する義務があるとしています。また、消防方法36条の2によれば、消防署を置く市町村は空気式救助マットを備える義務があるとしています。これらが設置されていなかったのみならず、隣町の消防本部に「はしご自動車」の出動要請もしていなかったことは、山ノ内町に過失があったと言えるのではないでしょうか。

3 山ノ内町の主張

 消防の設備は、岳南広域消防組合が処理すべき事務であって、山ノ内町の事務ではありません。また、消防隊員は午前3時50分に通報を受け、午前4時9分に現場に到着し、夫婦が窓から転落する午後4時21分までのわずか11分間という極めて短時間の間に、三連はしごとかぎ付きはしごによる救助、要救助者への援護注水、要救助者の落下衝撃緩衝のための布団などを集めるように指示するとともに、はしご自動車を有する隣町の消防本部へはしご自動車の出動要請を行っていました。なので、消防活動に関して国家賠償法上の過失はありません。

4 東京地方裁判所の判決

 岳南広域消防組合において、はしご自動車の配置が国家賠償法上の義務であったと認めることはできない。また消防隊員は、屋内に進入して安全に救助活動をすることができる人員に達しておらず、屋内に侵入して安全に救助活動をすることが不可能である一方、要救助者である妻らはすでに窓から身を乗り出して救助を求めていたのであるから、ホテルの外から窓をめがけてはしごをかけて妻らを救助するという救助活動の選択は、はしご自動車が到着していない、すなわち、現場にはしご自動車がない状況での選択肢として合理的でもあり、その他の選択肢はないと考えられる。また、落下の可能性に備えて布団等を準備することは、他の方法を選択することができないという意味を含めて、必要かつ有効なものであっといえる。消防本部に対して、はしご自動車の応援出動要請をしていたことからも、消防隊員は、火災現場、要救助者、救助器具の整備状況などに即して、その場ででき得る限りの救助活動を行ったものといえ、職務上の注意義務違反は認められないから、岳南広域消防組合に国家賠償法上の過失があるといえない。
 よって、妻らの請求を棄却する。

5 消防隊員の職務上の注意義務

 今回のケースで裁判所は、ホテルの火災で消防隊員が現場に到着してわずか15分の間に夫婦が5階の窓から転落した事故について、指針で性能の定めがないことから、消防署に高所からの落下に耐えられる空気式救助マットを備えるべき義務があるわけではなく、消防隊員ができる限りの救助活動を行っていたことから、国家賠償法上の義務違反ないとしました。
 普段からの避難訓練だけでなく、消防隊員の救助活動の実情や消防力の整備状況についても知っておくこともとても意義があると思います。
 では、今日はこの辺で、また。


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