バドミントンペア負傷事件

こんにちは。

 バドミントンで長めのソックスをはいてプレーしていると、池田信太郎スタイルと呼ばれることを初めて知りましたね。

 さてラブオールプレーのアニメ化もあって、バドミントンがいっそう盛り上がってきているのですが、スポーツにおける危険性も知っておく必要があると思います。とくに法律上、どのようなことが問題となるのかを考える上で、「バドミントンペア負傷事件」(東京高判平成30年9月12日裁判所ウェブサイト)について紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 東京都内のバドミントン教室仲間だった4人の女性たちは、体育館でバドミントンのダブルスの試合をしていました。相手コートから飛んできたシャトルを打ち返そうと、後衛にいた女性がバックハンドでラケットを振ったところ、前衛にいた40代の女性の左目にあたってしまいました。その後、負傷した女性の左目の瞳孔が広がり、光の調整が難しくなったため、パートの仕事や日常生活に支障をきたすようになりました。そのため、負傷した女性は、後衛の女性に対して慰謝料や休業補償など約1534万円の支払いを求めて提訴しました。 

2 前衛の女性の主張

 後衛の女性は、当初から自らの責任を認めず、損害賠償請求に応じなかったことから、弁護士に依頼して訴訟を提起せざるを得ませんでした。バドミントン競技が一定の事故の危険をはらんだ競技であることは否定しないにしても、私が負った傷害は、バドミントン競技に内在する危険ではなく、負傷することも許容していたわけでもないので、私が泣き寝入りするのはおかしいと思います。とくに後衛のプレイヤーは、前衛のプレイヤーが見える位置にいて注意できたはずであり、またシャトルを打つときに声をかけるべきだったのにそれを怠っていましたので、治療費、慰謝料、仕事ができなくなった分の補償など、あわせて1534万円を支払ってもらわなければ困ります。

3 後衛の女性の主張

 シャトルを打ち返すまで1秒程度しかなく、前衛のプレイヤーの動きを把握するためにあらゆる手段を尽くしました。前衛のプレイヤーは、シャトルへの対応が間に合わないと判断してこれを見送っていたので、私の操作するラケットが当たるという危険を回避すべき義務があったのにこれを怠っていました。また、私は自らシャトルを打ち返すと判断してシャトルの落下位置まで移動を開始する直前に「はい」と声かけをしていたので、私に過失はなかったはずです。そもそも、バドミントンの競技者は事故の危険を引き受けて競技に参加しており、前衛のプレイヤーが視野に入っていない状態でシャトルを打ち返すことは、バドミントンのダブルス競技のルールの範囲内にあって許容される行為なので、違法性が阻却されて、損害賠償責任を負わないはずです。もしこのような場合にまで過失責任が問われるとすれば、国民が安心してスポーツを親しむことができなってしまうのではないでしょうか。

4 東京高等裁判所の判決

 バドミントン競技の場合、ボクシング等の競技とは異なり、バドミントン競技の競技者が、同競技に伴う他の競技者の故意又は過失により発生する一定の危険を当然に引き受けてこれに参加しているとまではいえない。飛んできたシャトルは後衛の女性よりも前衛の女性に近く、前衛の女性において十分対応可能な位置であり、かつ前衛の女性が打ち返すべき位置に飛来したものであり、しかも、後衛の女性が声かけをした事実は認められず、その他、前衛の女性が飛来したシャトルを打つための動作を開始せず、あるいは途中でこれを止めたと認めるべき事情が見当たらない以上、後衛の女性の供述により、前衛の女性は、後衛の女性がシャトルを打ち返した時点で、身体を動かす動作を始めて同シャトルを打ち返すことが可能な位置にいたと認めるのが相当である。
 後衛の女性は、後衛において前衛の女性とほぼ前後に並ぶ位置にいたのであるから、前衛の位置にいた女性の動静を把握することができたことは明らかであり、しかも、後衛の女性は、自らが動き出す時点で、前衛の女性がシャトルを打つために動く可能性があることを予見できたというべきであるから、後衛の女性が主張する諸点はいずれも後衛の女性の過失を否定する理由とはならない。
 よって、後衛の女性は、前衛の女性に対して約1319万円を支払え。

5 保険に加入してからスポーツをする必要あり

 今回のケースで裁判所は、バドミントンのダブルスの試合で、後衛のプレイヤーのラケットが前衛のプレイヤーの目に当たって負傷した場合に、後衛のプレイヤーが前衛のプレイヤーの動きを把握することができることから注意義務を負い、それを怠った場合にはたとえスポーツ事故であったとしても損害賠償責任を負うとしました。
 スポーツでは、ルールを守ることはもちろんですが、自身の身体に対するスポーツ保険や個人賠償責任保険に加入するなどして事前に対策を講じておく必要もあるでしょうね。

では、今日はこの辺で、また。


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