印鑑証明書交付申請事件
こんにちは。
今日は、権限外の行為による表見代理の成立が問題となった最判昭和39年4月2日を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
橋本美瑾の内縁の夫だった山田喜代松は、橋本から印鑑証明書交付申請の依頼を受けていました。ところが山田は印鑑を偽造し、小林栄次郎に対する債務について、橋本の土地に抵当権を設定する契約を締結し、その登記を行いました。そのため、橋本は小林に対して、抵当権の抹消登記手続きを求めて提訴しました。
2 最高裁判所の判決
取引の安全を目的とする表見代理制度の本旨に照らせば、民法110条の権限踰越による表見代理が成立するために必要とされる基本代理権は、私法上の行為についての代理権であることを要し、公法上の行為についての代理権はこれに当らないと解するのが相当である。本件の場合、小林らは、山田の判示抵当権設定契約につき、橋本に効力の及ぶ民法110条の表見代理の成立を主張するのであるが、原審の認定判示するところによると、山田が橋本より依頼されて橋本のために処理した行為は印鑑証明書下付(かふ)申請行為という公法上の行為であって、山田が一定の私法上の行為につき橋本の代理人であり代理権を有していたことの具体的な主張がなく、その立証もない、というのであるから、右原審の確定した事実関係のもとでは、本件抵当権設定契約につき表見代理の問題を生ずる余地がないとした原審判断は正当である。
よって、小林の上告を棄却する。
3 公法上の代理権
今回のケースで裁判所は、民法110条の表見代理が成立するために必要とされる基本代理権は私法上の行為についての代理権であることを要すると解すべきである、としました。
つまり印鑑証明の申請といった公法上の行為は、民法110条にいう基本代理権にはならないという点に注意が必要でしょうね。
では、今日はこの辺で、また。
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