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東大病院ルンバール事件

こんにちは。

 ドラマ医龍で、佐藤二朗さんが演じたスーパードクター松平先生の話がとても好きなのですが、どのお医者さんも、常に最新の医学の知識と技術の習得に努めながら、医学の進歩と発展に全力を尽くしているところがすごいなあと感じていますね。


 そんな中で今日は、法律の世界で有名な「東大病院ルンバール事件」(最判昭和50年10月24日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 3歳の男の子が、髄膜という脳みそを包む膜に細菌が感染して引き起こされる化膿性髄膜炎の疑いで東大病院に入院していました。医師は、腰のあたりに針を刺して背骨の隙間から髄液を取り出す治療法とされるルンバールを実施したところ、その直後に脳出血と思われる症状が出て、男の子に知能障害や運動障害などの後遺症が残りました。そこで、男の子の両親は医者の使用者である国に対して約3900万円の損害賠償を求めました。

2 男の子の両親の主張

 医師と看護師は学会に出席するために外出する必要があったという理由で、通常では行わない昼食の直後に、看護師が馬乗りになって体を固定した上でルンバールを行ってたけど、うまくいかず何度も何度もやり直して施術が終わるまで約30分間、うちの子を極度の興奮状態にさせてたやろ。うちの子は、もともと普通の人に比べて脆弱な血管の持ち主で、泣き叫び暴れたりすると脳出血を引き起こす可能性があったんや。脳出血が生じ、障害を負うことになったのは、医師の過失よるもので、ルンバールの実施と障害との間に直接の因果関係が認められないとしても、担当医師らは、ルンバールによる発作とその後の病変に対する看護治療に関して過失があったので、損害賠償責任は免れないはずや。

3 医師の主張

 男の子の発作と、その後の病変は、化膿性髄膜炎が再燃したものであって、ルンバールを実施したことが原因でないと思います。鑑定人も、ルンバールの施術と障害には因果関係がないと述べています。それゆえ、ルンバールの実施とその後の治療について、我々には過失はないと思います。

4 最高裁判所の判決

 訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。
 今回の発作は、男の子の病状が一貫して軽快しつつある段階において、ルンバール実施後15分ないし20分を経て突然に発生したものであり、他方、化膿性髄膜炎の再燃する蓋然性は通常低いものとされており、当時これが再燃するような特別の事情も認められなかった。すると、他に特段の事情が認められない限り、経験則上、今回の発作とその後の病変の原因は脳出血であり、これがルンバールによって発生したものというべく、結局、男の子の発作及びその後の病変とルンバールとの間に因果関係を肯定するのが相当である。

5 因果関係の証明

 今回のケースで最高裁判所は、経験則上、男の子の発作とその後の病変の原因が脳出血にあるとし、それがルンバールの実施によるものであるとして、東京高等裁判所に破棄差し戻しました。差戻し審では、医師の過失を認め、約2465万円の損害賠償が認められています。
 そもそも医学の分野において「実験で確認したり多くの事例によってチェックできるような一点の疑義も許されない自然科学的証明」が可能であるのかどうかについては疑問の余地があるとされており、具体的なケースで裁判所の判断が異なる可能性がありますので、今後も裁判例を分析していきたいと思います。

では、今日はこの辺で、また。


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