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未熟児網膜症姫路日赤事件

こんにちは。

 早産のときに見られる未熟児網膜症とは、未熟児において眼の後部にある微小な血管 が異常に成長する病気で、病院でレーザー治療などが行われているようですね。

 さて今日は、未熟児網膜症を早期に発見できなかったことから裁判に発展した「未熟児網膜症姫路日赤事件」(最判平成7年6月9日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 林貴幸は、昭和49年12月に、31週目に体重1508gの未熟児として出生しました。貴幸を診察した姫路赤十字病院の中山医師は未熟児網膜症を発見できず、退院後の検査で眼底異常の疑いありと診断しました。兵庫県立こども病院の眼科を受診したときに、両目とも未熟児網膜症と診断され、視力が0.06になっていました。そのため、貴幸の両親は、中山医師に注意義務違反があったとして、日本赤十字社に対して損害賠償を求めて提訴しました。

2 両親の主張

 貴幸が出生した昭和49年までに、兵庫県内では多くの未熟児が、未熟児網膜症の対策を念頭においた眼底検査を受け、検査結果に対応して迅速に光凝固法の手術を受けるなどして失明を回避していた。姫路赤十字病院もこのことを認識していたはずなのに、初回の眼底検査の所見でなぜか次回の検診は必要なしと判断していたので、過失があったといわざるを得ません。

3 日本赤十字社の主張

 当時、未熟児網膜症の治療法として、まだ光凝固法が確立されていなかった。中山医師が貴幸さんの生後16日に眼底検査を実施しており、その後退院まで検査をせず、そのため転医をさせなかったからといって、医師に注意義務違反があったとはいえないはずだ。

4 最高裁判所の判決

 ある新規の治療法の存在を前提にして検査・診断・治療等に当たることが診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準であるかどうかを決するについては、当該医療機関の性格、所在地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮すべきであり、その事情を捨象して、すべての医療機関について診療契約に基づき要求される医療水準を一律に解するのは相当でない。そして、新規の治療法に関する知見が当該医療機関と類似の特性を備えた医療機関に相当程度普及しており、当該医療機関においてその知見を有することを期待することが相当と認められる場合には、特段の事情が存しない限り、その知見はその医療機関にとっての医療水準であるというべきである。
 これを本件についてみると、光凝固法については、天理よろず相談所病院の眼科医永田誠による施術の報告後、昭和46年ごろから各地の研究者によって追試が行われ、その治療法が未熟児網膜症の進行を阻止する効果があるとの報告が相次いでいたところ、厚生省は、本症の病態や光凝固法の施術時期等に関する各地の研究者による研究成果を整理して、診断と治療に関する最大公約数的な基準を定めることを主たる目的として、昭和49年度厚生省研究班を組織し、その研究班は、昭和50年3月、進行性の本症活動期病変に対して適切な時期に行われた光凝固法が治療法として有効であることが経験上認められるとし、一応の診断治療基準を示した研究成果を発表した。姫路日赤においては、昭和48年10月ごろから、光凝固法の存在を知っていた小児科医の松永医師が中心となって、未熟児網膜症の発見と治療を意識して小児科と眼科とが連携する体制をとり、小児科医が患児の全身状態から眼科検診に耐え得ると判断した時期に、眼科の中山医師に依頼して眼底検査を行い、その結果本症の発生が疑われる場合には、光凝固法を実施することのできる兵庫県立こども病院に転医をさせることにしていた。姫路日赤は、すでに昭和49年には、他の医療機関で出生した新生児を引き受けてその診療をする「新生児センター」を小児科に開設しており、現に、貴幸も、同年12月11日に聖マリア病院で生まれたが、姫路日赤の診察を受けるために転医をしたというのである。そうすると、姫路日赤の医療機関としての性格、貴幸が姫路日赤の診療を受けた昭和49年12月中旬ないし昭和50年4月上旬の兵庫県及びその周辺の各種医療機関における光凝固法に関する知見の普及の程度等の諸般の事情について十分に検討することなくしては、本件診療契約に基づき姫路日赤に要求される医療水準を判断することができない筋合いであるのに、光凝固法の治療基準について一応の統一的な指針が得られたのが厚生省研究班の報告が医学雑誌に掲載された同年8月以降であるというだけで、貴幸が姫路日赤の診療を受けた当時において光凝固法は有効な治療法として確立されておらず、姫路日赤を経営する日本赤十字社に当時の医療水準を前提とした注意義務違反があるとはいえないとした原審の判断には、診療契約に基づき医療機関に要求される医療基準についての解釈適用を誤った違法があるものというべきであり、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
 よって、原判決を破棄し、大阪高等裁判所に差し戻す。

5 医者に注意義務違反あり

 今回のケースで裁判所は、未熟児網膜症の診断にあたった医療機関に、当時の医療水準を前提とする注意義務違反がなかったとした原判決の判断に違法性があるとして、破棄差戻しをしました。差戻審では、姫路赤十字病院に対して、わずか1回の眼底検査で以後の検診を不要とすべきではなく、頻回検査をすべきであるにもかかわらず、それを行わなかったために、患者が光凝固法などの外科的手術を受ける機会を失ったとして、注意義務違反があるとしました。この点も是非知っておいてもらえると幸いです。
 では、今日はこの辺で、また。


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