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ラブホ密会事件
こんにちは。
今日は、ラブホテルでの密会が不貞行為になるのかどうかが問題となった東京地判平成25年1月30日(LEX / DB 25510586)と東京地判平成25年3月25日を紹介したいと思います。
1 一線を超えていない事件
夫は、病院に勤める妻が上司の男性医師とラブホテルに入った事実を突き止め、弁護士に相談した上で、不倫医師の妻とともに病院に押しかけて話し合った結果、不倫医師は夫に対して慰謝料100万円を支払うことになりました。その後、夫が妻に対して離婚を求めて裁判所に提訴すると、不倫医師は離婚裁判の中で「妻とは資格取得の慰労会を2人で行い、酔いを醒ますためにホテルに入ったが、妻はホテルで吐いており、自分は眠ってしまったので性的行為は一切していない」などと、不貞関係を否定する証言をしていたことから、夫は、不倫医師に対して300万円の支払いを求めて提訴しました。
2 東京地判平成25年1月30日
不倫医師は、平成20年9月20日、妻と2人で飲んだ後、午後11時ころいわゆるラブホテルに入り、翌午前2時ころまで滞在したこと、不倫医師は、平成21年3月20日、夫に対し、謝罪し、慰謝料として100万円を支払ったことが認められ、これらの事実は、不倫医師と妻との間に不貞行為があったことを疑わせるものである。
しかしながら、不倫医師は、本件話合いにおいても、妻との性行為の存在については明確に否定しており、本件陳述書及び本件証言の内容と矛盾するものではない。また、不倫医師は、本件話合いにおいて、「あれ1回こっきりですし。」とは述べているものの、続いて「ホテルに入ったという既成事実は」、「何も申し開きはしませんけれども」、「いわゆる一線を越えたという意味では、そういったものもありませんし」と述べていることからすれば、不倫医師が不貞行為を認めたとまでは認められない。また、本件話合いにおいて、夫は不倫医師に対する慰謝料額と不倫医師の妻の自身の妻に対する慰謝料額の差額を問題にしているが、不倫医師及びその妻は、夫との問題がすべて終了することを前提に不倫医師が夫にいくら支払えばよいかを尋ねており、慰謝料額の算定方法について、不倫医師が夫と同様の認識を有していたとまでは認められない。
また、夫の陳述書によっても、妻は平成20年9月20日に不倫医師が飲み過ぎたせいで本番をやっていないと弁明したと述べるにとどまり、性行為をしたと明確に自認したとまでは認められない。
また、夫は、不倫医師が本件話合いの録音を夫に不利に編集したと主張し、本件証拠上も、記録媒体に残された録音終了時刻である平成21年3月20日午後4時1分が本件話合いの終了時刻より後の可能性が高いと考えられるものの、不倫医師にとっては同日に夫に100万円を支払い、清算条項の入った合意書を作成したことによって終了したはずの妻との関係について、本件話合いの当日はもちろん、その後においても、録音内容を編集してまで妻に加担する理由は見当たらず、本件証拠及び調査嘱託の結果をみても、不倫医師が本件話合いの録音内容を夫に不利な内容に故意に編集したなどの事実を認めることはできない。
そうすると、不倫医師と妻との間に単なる職場の部下と上司の関係を越えた男女関係があったことが疑われ、ホテルに入った経緯については、陳述内容に変遷が認められるものの、不貞行為そのものについて、本件証拠上も認定するには至らず、不倫医師が自己の認識に反していることを知りながら、本件離婚裁判において偽証したり、虚偽の内容の陳述書を提出したりしたとまで認めることはできず、不倫医師に不法行為を認めることはできない。
よって、夫の請求を棄却する。
3 一線を超えた事件
結婚し2人の子どもをもうけた看護師である妻は、同じ病院の医師とラブホテルで密会するなど不倫関係にあった。夫は、不倫医師と面談し、妻とはもう会わないように依頼しましたが、不倫医師はそれを断りました。
妻は次女を連れて近隣のマンションに転居し、勤務先の病院から解雇されましたが、その後も不倫医師と不貞関係を継続していたことから、夫は精神的な損害を被ったと主張し、不倫医師に対して、3000万円の損害賠償を求めて提訴しました。
4 東京地判平成25年3月25日
不倫医師も、平成22年頃から、妻と一緒にラブホテルやレンタルルームに行くことがあったこと自体は認めているところ、不倫医師は、不貞行為の存在は否認し、性的能力がなかったので、妻との間で男女関係を持つことは不可能であるとか、ラブホテルやレンタルルームに一緒に行ったのは、妻が摂食障害等により体調を崩して仕事ができなくなるのではないかと心配し、電子レンジや簡単な食器等が備付けられている場所で、妻が料理を作って普段の食事を再現することにより、その栄養状態を知ることができるからである旨主張する。
不倫医師は、EDあるいは勃起不全症候群に罹患している旨の医師の診断書を提出するが、まず同診断書についていえば、これらの診断は、通常は、本人の主訴に基づいてなされる性格のものであること、症状自体も、基礎疾患として糖尿病の存在が示唆されているものの、さらに、心因性の要因が重なるものとされていること等を考慮すると、特定時点で、このような診断がされたことから、妻との関係で常に性的能力がないと認定することはできない。
また、不倫医師は、妻に対して好意を持っていたことは認めており、妻もその陳述書において、「私にとって愛することと、肉体関係を持つことは別の次元の事でした。本当の絆は心で結ばれると信じていました。先生とは心で結ばれたいと強く思いました。メールや電話で話をしたり、一緒に食事をしたり、手を握り合ったりするだけで、こんなにも心が満たされ、安心するのかと思いました。」と述べ、また、不倫医師に対し「愛してる」と記されたメールを送るなどしていることに照らせば、不倫医師に対して愛情を感じていたことは明らかというほかない。そうすると、ラブホテルやレンタルルームに一緒に行った理由についても、上述のような不倫医師の主張を軽々に採用することはできない。
結局のところ、合理的な理由なくラブホテル等を継続的に利用するということは、不貞行為が存在するものと社会的に推認されるべき事情であるし、仮に不貞行為が存在していなかったと仮定しても、異性とラブホテルで一緒に過ごすこと自体が、婚姻の継続を著しく困難にする事情に当たると解するのが相当であるから、本件においては、いずれにしても不貞行為の存在と同視すべき不法行為が成立するというべきである。
なお、不倫医師は、夫と妻との婚姻生活は、当時既に破綻していたと主張するが、妻の心中において、夫への不信や嫌悪等が高まっていたとしても、少なくとも平成21年頃までは、両名の婚姻関係が破綻していたことを裏付ける客観的証拠は存在せず、むしろ外形的には、夫婦らは仲睦まじい家族の体をなしていたものと認めるのが相当である。したがって、平成22年2月以降は寝室が分けられ(原告本人)、平成23年4月26日、別居に至ったとしても、それは、むしろ不倫医師との交際にその原因を発するものと評価すべきであるから、その前後に、不貞行為あるいはそれと同視すべき行為を行ったことにつき、婚姻関係が既に破綻していたと主張して、責任を免れることはできないというべきである。
不倫医師が妻と不貞行為あるいはそれと同視すべき行為を行ったことにより、妻が次女を連れて自宅を出て、別居に至り家庭関係が崩れることになり、夫が精神的損害を被ったことは、夫の陳述や供述を待つまでもなく明らかというべきである。そして、本件においては、面談を試みたのにもかかわらず、不倫医師の対応に変化が認められず、本件面談以降も妻との交際を続けたという事情もあるが、他方、現時点における夫の心情としてはなお、妻との婚姻関係が完全に破綻したとは認識しておらず、離婚を求めるものではないことが窺われるという事情もある。
その他、本件における諸事情を総合勘案すれば、夫が被った精神的損害を慰謝するためには、300万円をもってするのが相当というべきである。
よって、不倫医師は、夫に対して300万円を支払え。
5 密室にいれば不貞行為の推定が働く
今回のケースで裁判所は、結婚している女性が、夫以外の男性とラブホテルに出入りしていることについて、「既婚者が、配偶者以外の人と自由な意思に基づいて性行為を行う」という不貞行為があるとの推認が働くとしました。ただし、ホテルでの密会について「何もしていない」と言い訳された場合には、さらなる証拠の提出が求められる可能性がありますので、注意する必要があるでしょうね。
では、今日はこの辺で、また。