スキー事件
こんにちは。
滋賀県民の鉄板ネタとして「琵琶湖の水、止めたろか」というのがあるように、関西に住む人にとって琵琶湖の存在感は絶大なものがあります。とくに、琵琶湖を見下ろしながら、スキーやスノボを楽しめる、びわ湖バレイも非常に景色が美しいところです。
さて、スキーやスノボでは、時速60km以上のスピードが出ることもあることから、スキーヤー同志の事故も絶えません。今日は、そんなスキー中の事故で裁判に発展した「スキー事件」(東京地判昭和39年12月21日判例タイムズ170号152頁)を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
長野県志賀高原、高天ヶ原スキー場で、志賀高原観光開発株式会社のスキー・パトロール要員の竹節は、スピードを出して雪庇でジャンプをしたところ、約16m下で転倒し、起き上がろうとしていた関本静の顔面にスキー板を衝突させ、右目失明、鼻骨複雑骨折などの重傷を負わせました。そのため、静とその両親は、竹節とその雇用主の観光会社に対して約405万円の損害賠償の支払いを求めて提訴しました。
2 関本静らの主張
私は、事故により顔に傷が残り、労働能力を喪失するなど仕事面で多大な影響を受けています。また、私の両親も、私が危篤状態であると告げられてから、治療看護に心労を感じ、結婚適齢期にある娘に後遺症が残ったことに多大な精神的な苦痛を受けていました。なので、これらすべての損害を賠償していただきたい。
3 竹節らの主張
私は、ジャンプしたときに静が倒れているのを確認したので、衝突をさけるため体をひねってジャンプしたが、静がたまたま首をもちあげたためスキーが衝突した。特にスキーには危険が伴うもので、各人がいかに注意しても衝突事故をゼロにすることはできず、スキーヤーは衝突の危険を容認して滑走しているものと考えられる。したがって、ゲレンデ内での事故は、特段の事情がない限り、被害者において甘受すべきであって加害者の行為は違法性を阻却するというべきである。
4 東京地方裁判所の判決
ジャンプするための滑降体勢にはいるにあたっては、まず十分な見通しのきく場所において前方および左右の状況を確かめるか、又は見張りの者を立てるなどして自己のジャンプしようとする進路に向かって滑走してくる者がないことを確認すべき注意義務があり、殊にスキー場のパトロールに従事する者は、滑走コースの整備のためシュプールをつけるにしても、つとめてジャンプを避け、たとえジャンプするにしても、これを行う時を選択する等として危害の予防について一層の注意を払うべき義務があるというべきである。
スポーツやゲームに参加する者は、加害者の行為がそのスポーツやゲームのルールないしは作法に照らし、社会的に許容される程度の行動である限り、これが参加中に生ずる通常予測しうるような危険を受忍することに同意しているものと解すべきである。しかし、竹節は重大な過失によりまったく別のコースを斜め滑走してきて、進路上に転倒していた静に気づかず、あえて雪庇の上でジャンプするという極めて危険な行為に出て、重症を負わせているので、そのような行為は到底社会的に容認されるものではない。
また雇い主の会社がパトロール要員の選任監督につき相当な注意をしていたとはいえない。
よって、関本静らに約310万円を支払え。
5 スキー事故では上方の者に注意義務あり
今回のケースで裁判所は、スキー場のパトロール要員が、ジャンプする際に前方に客がいないかどうかの注意義務を怠り、また会社も監督責任を怠っていたことを理由に損害賠償を認めました。
また、最高裁(最判平成7年3月10日)でも、上方のスキーヤーが前方を確認することができるという理由で注意義務が課せられていますので、ゲレンデでの滑走の際には十分に注意する必要があるでしょう。
では、今日はこの辺で、また。