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学納金返還請求事件

こんにちは。

 最近、大学の入学金をめぐるニュースを目にするようになりました。

 これ以前に、学納金(入学金や授業料の前払い)をめぐって裁判が提起された時代がありました。いったい大学側の学納金システムのどこに問題があったのでしょうか。この点を考える上で、今日は学納金返還請求事件(最判平成18年11月27日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 日本大学に合格したある受験生は、入学金26万円、授業料等を98万円を支払った後に、3月29日に電話で入学を辞退する旨を伝えました。
 同志社大学に合格した受験生は、入学金と授業料を納付した後に、4月2日に電話で入学を辞退する旨を伝え、同志社女子大学に合格した5名の学生は、入学金と授業料を納付した後に、大学の要項で「4月2日の入学式の無届欠席の場合は入学資格を失う」と書かれていたにもかかわらず、4月2日の入学式を欠席しました。大阪医科大学に合格した学生は入学金100万円、授業料等614万円を支払ったのちに、神戸大学医学部に合格したため、3月27日に大阪医科大学の入学を辞退しました。

 しかし、入学を辞退したにもかかわらず、学納金の返還が認められないことに疑問を抱いた合格者たちが、それぞれ裁判所に学納金の返還を求めて提訴しました。

2 合格者の主張

 大学と合格者との間で交わされた在学契約に基づいて学納金を支払いました。しかしこれは、教育サービスを受けることの対価だと理解すべきで、在学契約を解除すれば、その教育サービス提供義務が消滅するので、その対価の学納金支払義務も当然に消滅するはずです。また、学納金を違約金または解約料として没収するのは、消費者契約法9条1号によって無効となるはずです。

3 大学側の主張

 契約にあたる大学の要項には「いったん納付された学生納付金は理由のいかんを問わず返還しない」と定めているので、問題はない。
 大学は入学辞退者が出ることを想定して合格者を定めているが、どれだけの入学辞退者が出るかは不確実であって、最終的な入学者数が入学定員を下回ったり、逆に入学定員を大きく上回ったりする可能性がある一方で、大学は、収容定員等に応じて大学設置基準所定の人的物的教育設備を整える義務を負っていることなどから、入学者数が減少したからといって経費を削減することは容易ではない。しかも、大学が新入生を募集する時期は限られており、その時期を過ぎてから新入生を追加入学させることは困難であるし、大学における修業年数は、相当長期間に及ぶので、中途入学者を受け入れることも必ずしも容易とはいえない。また、入学者数の確保を図ろうとするあまり、入学辞退者が多数出ることを予想して学力水準の低い者の入学を許すことになれば、大学における教育研究や当該大学に対する社会的な評価の面で支障や不利益が生ずるおそれもある。これらの事情を考慮すると、不返還特約は、入学辞退によって大学が被る可能性のある授業料等の損失や不利益等を回避したり、補ったりする目的や意義を有するほか、早期に学力水準の高い学生を適正な数だけ確保するという側面もあるのだ。

4 最高裁判所の判決

 入学金については、在学契約または在学契約の予約が解除され、あるいは失効しても、大学はこれを返還する義務はない。しかし、この特約は、在学契約の解除に伴う損害賠償額の予定または違約金の定めという性質を持っているので、授業料等は、大学生になった後、大学の授業を受けるというまさに教育サービスの対価であるから、4月1日以降に大学の学生とならない場合には返還されるべきものである。
 日本大学の合格者については、入学金の返還は認められないが、授業料等の返還は認められる。
 同志社大学の合格者については、在学契約の解除の意思表示が3月31日までにされた場合には、原則として、大学に生ずべき平均的な損害は存しないので不返還特約はすべて無効となるのだが、それ以後に在学契約の解除の意思表示がされた場合には、原則として、大学に生ずべき平均的な損害を超えず、不返還特約はすべて有効となるというべきであるので、授業料等の返還は認められない。
 同志社女子の合格者については、入学式の欠席により在学契約が黙示的に解除されたことになり、この解除については大学に生ずべき平均的損害は存在しないので、授業料等の返還を認める。
 大阪医大の合格者については、不返還特約は原則として公序良俗に反するものではなく、医科大学では3月27日に在学契約を解除した場合に欠員が生じる可能性が潜在的に高く、損失が多額になることから、入学金と授業料ともに返還は認められない。

5 平成14年以降に全国で提起された裁判

 平成14年以降、全国的に学納金返還訴訟が提起されました。訴えた学生側が約350名、訴えられた学校が約150校以上にのぼっています。

 下級審で判断が分かれていた大学の学納金の扱いについて、最高裁は、入学金に関しては返還を認めず、授業料などについては、一部の例外を除いて4月1日を基準としてこれより前に入学を辞退していれば全額返還すべきとしています。

 しかし、個々の事例を見ると結論に若干の違いも見られますので、大学の入学を辞退する場合には、大学に損害が生じないように、できるだけ早い時期に在学契約の解除を申し入れておくことが無難でしょうね。

では、今日はこの辺で、また。


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