横浜市立中学校プール事故事件
こんにちは。
競泳の飛び込みで、グラブスタートとクラウチングスタートの2種類があることを知りましたが、ゴーグルが外れない付け方もあるのかと知って喜んでいたのもつかの間、市民プールでは試すことができないと気づきました。
さて、今日は水泳の授業中に起きた飛び込みの事故について解説してみたいと思います。公立の学校での事故では誰が責任を負うのかを考える上で、「横浜市立中学校プール事故事件」(最判昭和62年2月6日裁判所ウェブサイト)を紹介します。
1 どんな事件だったのか
横浜市立中山中学校で、水泳の授業が行われていました。体育教師がプールの飛び込みの指導をしていたのですが、中学3年生の生徒が飛び込んだときに、プールの底に頭を打ち付け、頸椎を損傷するなど重傷を負い、下半身不随などの後遺障害が残るという事故が起きました。そのため、生徒とその親は横浜市に対して約1億3000万円の損害賠償を求めて提訴しました。
2 中学生側の主張
先生は、2,3歩助走をつけてから飛び込み台から飛び込めと指導していました。そんときは、頭をプールの底に打ち付ける可能性のある非常に危険な飛び込み方法だと思いました。しかし先生から言われたので仕方なく飛び込みました。先生は、生徒を危険から守る義務があるのに、これを怠っていたと思います。
3 学校側の主張
私は、プールの飛び込みの指導をしていたときに、スタート台の上で静止した状態から飛び込む方法の練習では、水中深く入ってしまう者、空中での姿勢が整わない者など未熟な生徒が多く、その原因は足のけりが弱いことにあると判断しました。そこで、生徒に対して2、3歩助走してスタート台脇のプールの縁から飛び込む方法を1~2回させた後に、さらに2,3歩助走してスタート台に上がってから飛び込む方法を指導しました。もちろん、自信のない者はスタート台を使う必要はないと告げていましたので、安全面には十分に配慮していたと思います。また、教育活動は非権力的なものなので、国家賠償の対象でもないと思いますよ。
4 最高裁判所の判決
国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」には、公立学校における教師の教育活動も含まれるものと解するのが相当である。
助走して飛び込む方法、ことに助走してスタート台に上がってから行う方法は、踏み切りに際してのタイミングの取り方及び踏み切る位置の設定が難
しく、踏み切る角度を誤つた場合には、極端に高く上がつて身体の平衡を失い、空中での身体の制御が不可能となり、水中深く進入しやすくなるのでああって、このことは、飛び込みの指導にあたる教諭にとって十分予見しうるところであったというのであるから、スタート台上に静止した状態で飛び込む方法についてさえ未熟な者の多い生徒に対してこのような飛び込み方法をさせることは、極めて危険であるから、教諭には注意義務違反があつたといわなければならない。
よって、横浜市側の上告を棄却する。
5 教師の安全配慮義務
今回のケースで裁判所は、水泳の授業中に起きた事故について教員側が安全面に十分な配慮し、事故の発生を未然に防止すべき注意義務を怠ったとして、横浜市に約1億1300万円の損害賠償の支払いを命じました。
公立学校では飛び込み指導を原則禁止としているところが多いですが、そもそも教師が安全に指導教育を行うためには、設備や勤務状況、学校運営体制などの整備も必要不可欠なので、教育行政機関が教育条件をどのように整えていくかの検討も必要でしょう。
では、今日はこの辺で、また。