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神戸弘陵学園事件

こんにちは。

今日は、1年間のお試し期間を設けて労働契約を締結することが問題となった最判平成2年6月5日を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 昭和58年、学校法人神戸弘陵学園に社会科教員として採用された先生は、理事長から、「採用後の身分は常勤講師で、契約期間はとりあえず1年とする。1年後に再雇用するかどうかを判定する」と言い渡されました。社会の先生は、雲雀が丘学園への就職を辞退した上で、昭和59年4月1日より神戸弘陵学園で勤務を始めました。5月中旬ごろになると、社会の先生は「1年の期限付き常勤講師として採用される旨の合意が成立したこと、および1年の期間満了後に解約予告その他の何らの通知を要せずに期間満了の日に当然退職の効果が生ずる」などの内容が記載された期限付職員契約書に自らサインしました。
 次の年になると、神戸弘陵側が、期間満了により社会の先生と契約が終了するとの通知をしてきたので、社会の先生は教員としての地位の確認と解雇通知後の賃金の支払いを求めて提訴しました。 

2 最高裁判所の判決

 一審は、雇用契約が期間満了により終了しているとして社会の先生の請求を棄却し、二審も社会の先生の控訴を棄却しました。最高裁は、次のような理由で、原判決を破棄し、大阪高裁に差し戻しました。

 原審は、本件雇用契約は、昭和59年3月5日に、同年4月1日の始期付で、かつ、契約期間を1年として成立したものであり、右期間の満了により本件雇用契約は終了したと判断している。  
 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。  
 原審は、神戸弘陵が本件雇用契約を1年の期間付のものとしたのは、本校の開設後間もなく一時に大量の教員を採用する必要があり、 社会の先生のように教員経験のない者を新規に教員として採用するに当たっては、その適性について吟味する必要があることから、1年間の判断期間を設ける趣旨でしたものであり、右期間を1年としたのは、学校教育は行事等も含め1年単位で行われることから、各教員にひととおりの経験をしてもらった上で、その適性を判断しようという趣旨からであるという事実を認定している。  
 ところで、使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。そして、試用期間付雇用契約の法的性質については、試用期間中の労働者に対する処遇の実情や試用期間満了時の本採用手続の実態等に照らしてこれを判断するほかないところ、試用期間中の労働者が試用期間の付いていない労働者と同じ職場で同じ職務に従事し、使用者の取扱いにも格段変わったところはなく、また、試用期間満了時に再雇用に関する契約書作成の手続が採られていないような場合には、他に特段の事情が認められない限り、これを解約権留保付雇用契約であると解するのが相当である。そして、解約権留保付雇用契約における解約権の行使は、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合に許されるものであって、通常の雇用契約における解雇の場合よりもより広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきであるが、試用期間付雇用契約が試用期間の満了により終了するためには、本採用の拒否すなわち留保解約権の行使が許される場合でなければならない。  
 そこで、本件において、1年の期間の満了により本件雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が社会の先生と神戸弘陵との間に成立しているなどの特段の事情が認められるかどうかであるが、原審は、社会の先生は、昭和59年3月1日の第2回目の面接の際に、神戸弘陵の理事長から、採用後の身分は常勤講師とし、契約期間は一応同年4月1日から1年とすること及び1年間の勤務状態を見て再雇用するか否かの判定をすることなどにつき説明を受けるとともに、口頭で、採用したい旨の申出を受け、同年3月5日、右申出を受諾した、と認定しており、契約期間につき神戸弘陵の理事長が「一応」という表現を用いたとしているのである。また、原審は、社会の先生は、右第2回目の面接の際に、神戸弘陵の理事長から「雲雀が丘は断って、うちで30年でも40年でもがんばってくれ。」とか「公立の試験も受けないでうちへきてくれ。」とか言われた旨供述しているが、神戸弘陵の理事長は社会の先生が教員としての適性を有することを期待し、契約を更新して末永く本校において教鞭をとることを望んでいたことが認められるから、1年の期限付契約を結んだことと右神戸弘陵の理事長の発言とは矛盾するものではない、としている。原審は神戸弘陵の理事長が社会の先生の供述するとおりの発言をしたと認定しているのかどうかは必ずしも明らかではないが、もし右発言がされたのであるとすれば、神戸弘陵の理事長は 契約期間の1年を「一応」のものと述べたというのであり、右理事長が用いたと認定されている「再雇用」の文言も、厳格な法律的意味において、雇用契約を新たに締結しなければ期間の満了により契約が終了する趣旨で述べたものとは必ずしも断定しがたいのであって、1年の期間の満了により本件雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が社会の先生と神戸弘陵との間に成立していたとすることには相当の疑問が残るといわなければならない。  
 もっとも、原審の認定によれば、社会の先生が署名捺印した期限付職員契約書には、社会の先生が昭和60年3月30日までの1年の期限付の常勤講師として神戸弘陵に採用される旨の合意が社会の先生と神戸弘陵との間に成立したこと及び右期限が満了したときは解雇予告その他何らの通知を要せず期限満了の日に当然退職の効果を生ずることなどの記載がされているというのであり、右によれば、1年の期間の満了により本件雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が社会の先生と神戸弘陵との間に成立していたかの如くである。しかし、社会の先生が神戸弘陵から右期限付職員契約書の交付を受けたのは本件雇用契約が成立した後である昭和59年4月7日ころであり、 これに署名捺印したのは同年5月中旬であるというのである。また、本件記録によれば、社会の先生が神戸弘陵に提出した右期限付職員契約書の第1条には、神戸弘陵は学園の生徒数、職員数等の事情から昭和59年度に限り本契約職員を採用する必要がある旨記載されていることが窺われるところ、本校は昭和58年4月に開校されたというのであるから、昭和59年度は開校2年目で、生徒は1年次生と2年次生 のみであり、昭和60年度になって1年次生から3年次生までが初めて揃う状況にあった。したがって、昭和59年度から昭和60年度にかけてはむしろ生徒数が増加する状況にあり、生徒数の事情から昭和59年度に限って期限付職員を採用する必要があったとは思われず、同様に職員についても生徒数の増加に伴い増員する必要こそあれ、職員数の事情から昭和59年度に限って期限付職員を採用する必要が あったとは思われない。次に、本件記録によれば、右期限付職員契約書の第2条には、社会の先生は神戸弘陵学園勤務規定を遵守して誠実に勤務する旨の記載があることが窺われるが、昭和59年5月当時には右勤務規定はいまだ作成されていなかったことが窺われるのである。以上によれば、社会の先生の提出した期限付職員契約書は、 本件雇用契約の趣旨・内容を必ずしも適切に表現していないのではないかという疑問の余地がある。  
 更に、本件記録によれば、社会の先生は昭和58年3月に京都産業大学経済学部を卒業後、昭和59年3月に仏教大学社会学部通信教育課程を終了して、本校の教員に採用されたものであることが窺われるところ、このような場合には、短期間の就職よりも長期間の安定した就職を望むのがわが国の社会における一般的な傾向であるから、本件において社会の先生が1年後の雇用の継続を期待することにはもっともな事情があったものと思われる。  
 以上のとおりであるから、本件雇用契約締結の際に、1年の期間の満了により本件雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が社会の先生と神戸弘陵との間に成立しているなどの特段の事情が認められるとすることにはなお疑問が残るといわざるを得ず、このような疑問が残るのにかかわらず、本件雇用契約に付された1年の期間を契約の存続期間であるとし、本件雇用契約は右1年の期間の満了により終了したと した原判決は、雇用契約の期間の性質についての法令の解釈を誤り、審理不尽、理 由不備の違法を犯したものといわざるを得ず、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。  
 したがって、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。 そして、本件においては、前記疑問を解消し、本件雇用契約を1年の存続期間付のものであると解すべき特段の事情が認められるかどうか、右特段の事情が認められないとして本件雇用契約を試用期間付雇用契約であり、その法的性質を解約権留保付雇用契約であると解することが相当であるかどうか、そのように解することが相当であるとして本件が留保解約権の行使が許される場合に当たるかどうかにつき、更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。  

3 期間の定めがある雇用契約

 今回のケースで裁判所は、神戸弘陵に雇用期間1年で採用された社会の先生について、その期間設定の趣旨と目的が先生としての適性を評価するものであるときは、特段の事情がない限り試用期間と解され、本採用を拒否するためには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上の相当性が必要である、としました。
 逆に、純粋に1年間だけ講師として働ける人を探しているとして求人をしていた場合には、1年間で雇用契約が終了してしまうという点に注意が必要でしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。

 


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