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ピンクレディ事件

 こんにちは。

 アイドルのピンクレディといえば、昔、探偵ナイトスクープという関西のおばけ番組で、一定の年齢以上の女性はみんな完璧にピンクレディの振付を覚えているということが紹介されていました。

 今日はそのアイドルの名前がそのまんまつけられたピンクレディ事件(最判平成24年2月2日、最高裁判所民事判例集66巻2号89頁)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったか?

 ある日、ミーとケイが『女性自身』の「ピンク・レディーdeダイエット」と題する雑誌記事を見て、「あ~、私らの写真が勝手に使われてる~!しかも、14枚も!!」となり、出版社である株式会社光文社を相手に、民法709条の不法行為に基づく損害賠償として約186万円を請求した事件です。

「民法709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」

2 ピンクレディ側の意見

ミー&ケイ:「14枚も私らの写真を無断で使ってる!!グラビア写真と同じようにモデル料等を払って掲載すべきなのに、それをせずに売上をあげるなんて許せない。」

ミー&ケイ:「私らには、勝手に写真を使わないでほしいという肖像権と、勝手に写真で儲けないでほしいというパブリシティ権があって、709条の『他人の権利』を侵害しているから、損害を賠償してもらうわよ。」

 ということでした。

 ここでいう肖像権とパブリシティ権は、ともに法律の条文には存在しません。肖像権について最高裁判所は、人には無断で写真撮影されたり写真を公の場で利用されたりすることを拒む権利があると述べています(最判平成17年11月10日、 最高裁判所民事判例集59巻9号2428頁)。

 パブリシティ権(簡単に言うと顧客吸引力、つまり人を魅了して惹きつける力でお金を生む権利)については、地方裁判所や高等裁判所で認められてきましたが、これが最高裁でも認められるかどうかに注目が集まっていました。

3 出版社側の意見

光文社:「芸能人はテレビ番組・映画の紹介、コマーシャルや関連する商品の発表会等で写真撮影に応じているが、これらはいずれも『公の場』であり、そこでの写真は雑誌・新聞、テレビ等に掲載されることが予定されていて、芸能人や関係者もそれを承諾しているし、むしろそれを望んでいると思います。そのような場所で撮影された写真は、テレビ番組・映画の紹介、コマーシャル等を発表する記事に限定することをお願いされたこともなく、それ以外での使用も予定されているし、お互いにもそれを了解しており、このような写真撮影の場で使用料を支払う慣行はこれまでなかったはずです。」

光文社:「しかも、使っていたのは白黒の小さな写真で、グラビア雑誌と全く性質が違います。」

光文社:「雑誌の中では、ピンクレディの振付と前田健さんのコメントが重要で、ピンクレディの著名性を利用しているわけではありません」

 と、パブリシティ権の侵害を否定しました。 

4 判決

最高裁の裁判官:「一般的にパブリシティ権があることは認めますが、今回のケースでは、お2人の損害賠償請求は認められない。」

 その理由として、雑誌では①ピンクレディそのものを紹介しているのではなく、ピンクレディの曲の振付を利用したダイエット法を解説し、また前田健さんが振付をまねていた思い出を紹介していて、②写真の使用は200頁の雑誌全体の3頁にすぎず、しかも白黒写真であって大きくても縦8cm、横10cm程度で、読者の記憶を思い出させる目的で写真が使用されたにすぎない、ということが挙げられていました。

まとめ

 ピンクレディ事件とは、最高裁判所が初めてパブリシティ権があることを明言した判決のことです。

 また出版物も、グラビア雑誌のように有名人の写真(肖像)それ自体を鑑賞の対象とするような場合にはパブリシティ権侵害となるので、くれぐれも注意しましょう。


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