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クロロキン薬害事件
こんにちは。
ジントニックというお酒は、マラリア予防の薬剤キニーネを飲みやすくするために生まれたと知って驚きましたね。
さて今日は、キニーネから開発されたクロロキンによる網膜症が問題となった「クロロキン薬害事件」(最判平成7年6月23日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
マラリアに対する治療薬としてクロロキン製剤が開発され、昭和30年頃から関節リウマチ、腎疾患やてんかんの治療にも使用されていました。昭和34年に発表された外国の論文で、副作用としてクロロキン網膜症が報告されていましたが、その有用性は否定されず、昭和42年に劇薬指定及び要指示医薬品指定がなされました。その後、クロロキン製剤の投与を受けて、失明するなどクロロキン網膜症となった患者やその家族が、医師や国を相手に損害賠償を求めて提訴しました。
2 クロロキン患者らの主張
厚生大臣は、クロロキン製剤についてクロロキン網膜症を引き起こす危険性を認識していたはずなのに、その製造の承認を取り消さなかった。国が権限を行使しなかったことは違法なので、我々に総額168億円の損害賠償をしなければならない。
3 国の主張
薬事法によれば、医薬品の品質面について安全性を確保する必要があるが、副作用に関する安全性の確保について、審査の権限や義務について法律には書かれていない。また、昭和51年の「医薬品の再評価」によって、クロロキン製剤が腎炎、てんかんへの有用性が否定されるまでは、製造、輸入、販売を中止させる義務もなかったはずだ。
4 最高裁判所の判決
昭和35年から昭和39年までの間においては、その副作用であるクロロキン網膜症に関する報告が内外の文献に現れ始めたばかりであって、報告内容も長期連用の場合のクロロキン網膜症の発症の危険性及び早期発見のための眼科的検査の必要性を指摘するにとどまり、クロロキン製剤の有用性を否定するものではなく、この間に我が国で報告された症例は合計7件であったというのであるから、これらの文献や症例報告に基づく当時の医学的、薬学的知見の下においては、厚生大臣が、腎疾患及びてんかんを含めたクロロキン製剤の有用性を肯定しうるものとして行った行為に違法はないというべきである。
医薬品の副作用による被害が発生した場合であっても、厚生大臣が当該医薬品の副作用による被害の発生を防止するために各権限を行使しなかったことが直ちに国家賠償法1条1項の適用上違法と評価されるものではなく、副作用を含めた当該医薬品に関するその時点における医学的、薬学的知見の下において、薬事法の目的及び厚生大臣に付与された権限の性質等に照らし、その権限の不行使がその許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使は、副作用による被害を受けた者との関係において同項の適用上違法となるものと解するのが相当である。
厚生大臣が薬事法上の権限を行使してクロロキン網膜症の発生を防止するための措置を採らなかったことが、薬事法の目的及び厚生大臣に付与された権限の性質等に照らし、その許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとまでは認められず、国家賠償法1条1項の適用上違法ということはできない。
よって、患者らの上告を棄却する。
5 行政庁の規制権限の不行使
今回のケースで裁判所は、当時のクロロキン網膜症に関する知見、クロロキン製剤の有用性、厚生大臣がとった各措置などから、国が薬事法上の権限を行使しなかったことについて国家賠償法上の違法性はないとしました。
実際に、行政がその裁量を逸脱・濫用して規制権限を行使しなかった場合に、作為義務違反として国家賠償法上違法となるケースが少数であることに注意する必要があるでしょうね。
では、今日はこの辺で、また。