見出し画像

財産分与と詐害行為取消事件

 こんにちは。

 今日は財産分与と詐害行為取消権との関係が問題となった最判昭和58年12月19日を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 夫婦は、兵庫県津名郡北淡町(ほくだんちょう)で、クリーニング業を始めましたが、やがて夫は妻にクリーニング店をまかせ、不動産業と金融業を始めるようになりました。しかし昭和51年に、夫は東淡信用組合に対して多額の借金を背負いながら倒産しました。しかも、夫の不倫が発覚したことから、妻は離婚することにし、夫の土地が妻に対する慰謝料を含めた財産分与として譲渡されることになりました。これに対して東淡信用組合は、元夫の唯一の財産が土地しかなかったことから、元妻を相手に詐害行為を理由に譲渡契約の取消などを求めて提訴しました。

2 最高裁判所の判決

 神戸地方裁判所と大阪高等裁判所は、東淡信用組合の請求を棄却し、最高裁も次のような理由で、東淡信用組合の上告を棄却しました。

 離婚における財産分与は、夫婦が婚姻中に有していた実質上の共同財産を清算分配するとともに、離婚後における相手方の生活の維持に資することにあるが、分与者の有責行為によって離婚をやむなくされたことに対する精神的損害を賠償するための給付の要素をも含めて分与することを妨げられないものというべきであるところ、財産分与の額及び方法を定めるについては、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮すべきものであることは民法768条3項の規定上明らかであり、このことは、裁判上の財産分与であると協議上のそれであるとによって、なんら異なる趣旨のものではないと解される。したがって、分与者が、離婚の際既に債務超過の状態にあることあるいはある財産を分与すれば無資力になるということも考慮すべき右事情のひとつにほかならず、分与者が負担する債務額及びそれが共同財産の形成にどの程度寄与しているかどうかも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解すべきであるから、分与者が債務超過であ るという一事によって、相手方に対する財産分与をすべて否定するのは相当でなく、 相手方は、右のような場合であってもなお、相当な財産分与を受けることを妨げられないものと解すべきである。そうであるとするならば、分与者が既に債務超過の状態にあつて当該財産分与によつて一般債権者に対する共同担保を減少させる結果になるとしても、それが民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為として、債権者による取消の対象となりえないものと解するのが相当である。

 本件土地は元夫の唯一の不動産ではないが、同人所有の不動産であって東淡信用組合のために担保として提供されている財産はごく僅かな価値しかないため、唯一に近い不動産であり、その価格は約989万円であるが、元妻はその土地に対する根抵当権を抹消するため約536万円を支払った、というのである。 そして、右の事実関係のもとにおいて、本件土地は元妻の経営するクリーニング店の利益から購入したものであり、その土地取得についての元妻の寄与は元夫のそれに比して大であつて、もともと元妻は実質的に元夫より大きな共有持分権を本件土地について有しているものといえること、元妻と元夫との離婚原因は同人の不貞行為に基因するものであること、元妻にとっては本件土地は従来から生活の基盤となってきたものであり、元妻及び子供らはこれを生活の基礎としなければ今後の生活設計の見通しが立て難いこと、その他婚姻期間、元妻の年齢などの諸般の事情を考慮するとき、本件土地が元夫にとつて実質的に唯一の不動産に近いものであることをしんしやくしてもなお、元妻に対する本件土地の譲渡が離婚に伴う慰藉料を含めた財産分与として相当なものということができるから、これを詐害行為にあたるとすることができないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。
 よって、東淡信用組合の上告を棄却する。

3 財産分与と詐害行為

 今回のケースで裁判所は、離婚に伴う財産分与は、民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産分与であると認めるに足りるような特段の事情がない限り、詐害行為にならないとしました。
 財産分与は、民法に規定された義務であり、実質的に夫婦が共有している財産を分けるという性質があるので、相当な限度を超えない限り詐害行為にならないと考えられている点に注意が必要でしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?