マルク石油事件
こんにちは。
土地や建物を担保にお金を借りて、返せなくなった場合には土地建物が競売にかけられることになるのですが、例えば建物に取り付けられて、一体となった雨戸などは一緒に競売にかけられます。
では、建物とは独立している物について抵当権の効力が及ぶのでしょうか。今日はこの点を考える上で、「マルク石油事件」(最判平成2年4月19日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
昭和44年、マルク石油株式会社は、ガソリンスタンドを経営するために土地を借りて、敷地上の建物と地下タンク3基を購入し、昭和46年には地下タンク1基、洗車機1基、ノンスペース型計量機3基を設置しました。昭和52年にマルク石油は資金を調達するために、店舗の建物に根抵当権を設定しました。ところがその後に返済ができなくなり、根抵当権が実行されて株式会社山茂商会が店舗の建物を競落しました。後に山茂商会は、建物や地下タンク、洗車機、ノンスペース型計量機を占有していた本富士産業株式会社に対して、建物の明渡しと設備の引き渡しなどを求めて提訴しました。
2 山茂商会の主張
私は、競売によってガソリンスタンドの建物を競落した。地下タンク、ノンスペース型計量機、洗車機等の設備はガソリンスタンドの建物の従物、つまり民法370条の「目的である不動産に付加して一体となっている物」なので、抵当権の効力が及ぶはずだ。なので、建物以外に、地下タンクなどの引き渡しを求める。
3 本富士産業の主張
これまでの判例で従物とされたものとして、庭園に設置された石灯籠・五重塔、杖刀(じょうとう)に対するさや、建物の外にある便所、母屋に対する茶室などがある。競売にかけられた建物には販売室やオイルタンク、ポンプ室があるにすぎず、機能上、用途上は地下タンクが主物であり、建物が従物である。そうすると、建物に対する根抵当権は、地下タンクなどの設備には及んでおらず、競落人がそれらの設備の所有権を取得することはありえないはずだ。
4 最高裁判所の判決
本件諸設備はすべて賃借地上又は地下に近接して設置されて本件建物内の設備と一部管によって連通し、本件建物を店舗とし、これに本件諸設備が付属してガソリンスタンドとして使用され、経済的に一体をなしている。マルク石油は、本件建物につき昭和52年1月22日受付をもって本件根抵当権を設定していたが、債権者の申立により本件建物が競売に付され、山茂商会がこれを競落し、 その代金を支払って所有権を取得した、というのであり、このような事実関係の下においては、地下タンク、ノンスぺース型計量機、洗車機などの本件諸設備は本件根抵当権設定当時借地上の本件建物の従物であり、本件建物を競落した山茂商会は、同時に本件諸設備の所有権をも取得したとする原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。
よって、本富士産業の上告を棄却する。
5 抵当権の効力が及ぶ範囲
今回のケースで裁判所は、ガソリンスタンドの店舗用建物に対する抵当権設定当時、建物内の設備と一部パイプで連結する地下タンク、ノンスペース型計量機、洗車機などの設備を建物の敷地又は地下に近接して設置し、これらを建物に付属させて経済的に一体として営業に使用していた場合、それらの設備には建物の従物として抵当権の効力が及ぶとしました。
一緒に売った方が価値が上がるものは従物として扱われ、抵当権の効力が及ぶ可能性が高いですので、不動産に抵当権を設定したときには何が従物に当たるのかについて、十分に注意する必要があるでしょうね。
では、今日はこの辺で、また。