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高校野球練習中の負傷事件

こんにちは。

 少子化が続く日本では、硬式野球部に所属する高校生の数が2023年度には12万8357人となり、前年から2902人減少しているようですね。

 さて今日は、高校の野球部の練習中に負傷したことで裁判に発展した「高校野球練習中の負傷事件」(静岡地判平成28年5月13日判例時報2336号83頁)を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 静岡県立浜名高校の野球部に所属する高校生1年生は、部活の時間に打撃練習をする打者に対してボールを投げる打撃投手を務めていました。ところが、打者が打ち返したボールが、投手の頭に直撃し、頭蓋骨骨折、急性硬膜外血腫及び脳挫傷の傷害を負い、陳旧性脳挫傷及び脳波異常などの後遺障害が残りました。そのため高校生は、野球部の顧問兼教員が打撃投手にヘッドギアを着用させる義務があったのにこれを怠っていたので、その雇用主である静岡県を相手に、国家賠償法に基づく損害賠償を求めて提訴しました。

2 高校生の主張

 硬式野球で使用するボール(硬球)の硬さ、大きさ、打球の速さ等からすれば、硬式野球部において打撃練習を行う際には、打者が打ったボールが投手の頭部に直撃し、致命的な傷害が生じるおそれがあることは容易に予測することができたはずなので、野球部の顧問兼教員は、打撃練習の投手の身体の安全を積極的に保護すべき高度の注意義務が課されていたはずだ。
 公益財団法人日本高等学校野球連盟では、打撃練習時において、「製品安全協会」のSGマークが付けられている投手用ヘッドギアの着用を義務付けるとしているし、独立行政法人日本スポーツ振興センターの学校災害防止調査研究委員会において作成された「学校の管理下における体育活動中の事故の傾向と事故防止に関する調査研究-体育活動における頭頚部外傷の傾向と事故防止の留意点-調査研究報告書」によれば、打撃投手は必ず打撃投手用ヘッドギアを正しく固定し、装着することとされているじゃないか。
 野球部の顧問は、打撃投手にヘッドギアを着用させて、安全を確保するよう指導・監督する義務があったのに、過失によりこれを怠っていた。そうすると、その雇用者である静岡県には、国家賠償法1条1項に基づいて、治療費、入院慰謝料、逸失利益、後遺障害慰謝料、弁護士費用などを合わせて、約2418万円を支払ってもらいたい。

3 静岡県知事の主張

 高校における課外の部活動が、本来生徒の自主性を尊重すべきものであることに鑑みれば、何らかの事故の発生する危険性を具体的に予見することが可能であるような特段の事情がない限り、顧問の教諭としては、個々の活動に常時立会い、監視、指導すべき義務まで負うものではないというべきである。
 また事故の際、打撃投手の前には、L字型ネット及びバッティングケージが設置されており、高校生の投球後にL字型ネットに身を隠すことによって事故の発生を防ぐことが可能であった。また、教員も、打撃投手を務める者に対して、投球後にL字型ネットに身を隠すように指導を行っていた。
 事故時、被害に遭ったのは高校1年生であり、ほぼ成人に近い判断能力を持っていたといえるし、中学校時代から投手を務めていたことから打撃練習時における投手の危険性については十分認識していたといえる。
 したがって、事故時、打球の衝突を避けるためにL字型ネットに身を隠さなかった高校生にも過失が存在することは明らかであり、その過失割合は3割を下らないはずだ。

4 静岡地方裁判所の判決

 事故当時、高校には投手用ヘッドギアが存在しており、教諭も部活動に立ち会っていたにもかかわらず、教諭は、打撃練習の投手を務めていた高校生に対して投手用ヘッドギアの着用の指導を行っていなかったのであるから、その点の過失により職務上の注意義務に違反して今回の事故を生じさせ、高校生に損害を与えたものとして、公務員である教諭の職務行為の違法性が認められるというべきである。
 本件事故と相当因果関係を有すると認められる高校生の損害の合計額は、約886万円となる。
 高野連が、硬式野球部の部活動において、打撃練習時に、打撃投手を務める者に対して投手用ヘッドギアの着用を義務付けたのは、硬式球が頭部に当たった場合には生命、身体に重大な危険が生じるおそれが高いところ、打撃投手を務める者と打者との距離及び打球の速さから、L字型ネットだけでは当該打撃投手が打球を避けられない場合があることによるものと解される。
 しかも、本件の打撃練習はハーフバッティングによるものであり、打撃投手と打者の距離が公式ルールで定められた距離よりも短いことからすれば、L字型ネットだけでは打球を避けることができず、打者の打球が打撃投手の頭部に当たる可能性が一層高かったから、教諭において、打撃投手を務める高校生に対し、その生命、身体の安全確保のために、投手用ヘッドギアを着用するよう指導する必要性は高く、これを怠った教諭の過失は重大というべきである。 
 そうすると、仮に高校生がL字型に設置されたネットに頭部を隠すことが遅れたとしても、損害の公平な分担という見地に鑑み、本件事故において過失相殺を認めることは相当でないというべきである。
 よって、静岡県は高校生に対して、約886万円を支払え。 

5 部活の打撃投手にはヘッドギアを

 今回のケースで裁判所は、高校の野球部の打撃練習中に、打撃投手にバッターが打った球が直撃し負傷した事故について、顧問の教員が投手用ヘッドギアの着用の指導を行っていなかったことに過失があり職務上の注意義務違反があるとして、静岡県に高校生に対する損害賠償の支払いを命じました。
 高校の部活では事故を未然に防ぐために、打撃投手に対してL字型のネットを設置するだけではなく、ヘッドギアを装着させる必要があるという裁判所の判断があることに注意が必要でしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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