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全逓東京中郵事件

こんにちは。

 紀元前古代エジプトに、墓や埋葬品を作る専門集団が暮らす町があったのですが、あるとき王様から給料の支払いが滞ったので、「給料がないなら、もう働かないぞ」と、ストライキを起こしたという記録があるようです。

 今日は現代において、公務員によるストライキが問題となった「全逓東京中郵事件」(最大判昭和41年10月26日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 全逓信労働組合の幹部らは、東京中央郵便局に勤務し郵便物の配達などをしている従業員等に、「職場大会に参加してくれ」と説得し、直属の上司の許可なく38名を勤務時間内にもかかわらず職場から離脱させました。すると、郵便物の取扱い業務を放棄した38名については、郵便法79条の郵便物不取扱罪にあたることから、それをそそのかした幹部等が逮捕、起訴されました。

2 検察側の主張

 従業員たち38名が郵便物の取扱いをしなかったのは、郵便法79条1項の「郵便の業務に従事する者がことさらに郵便の取扱いをしない」罪を構成し、被告人等は自ら郵便業務に従事すべき義務を有するものではないが、郵便物の不取扱を教唆したのであるから、刑法65条1項、61条1項により、郵便物不取扱罪の教唆犯の罪を負うはずだ。

3 労働組合幹部らの主張

 ストライキとして、我々は郵便物を取り扱わなかったのだ。憲法28条は勤労者の団結する権利および団体交渉その他の団体行動をする権利を保障しており、国家公務員や地方公務員も勤労者に他ならないので、ストライキ権が認められるはずだ。

4 最高裁判所大法廷判決

 労働基本権は、たんに私企業の労働者だけについて保障されるのではなく、公共企業体の職員はもとよりのこと、国家公務員や地方公務員も、憲法28条にいう勤労者にほかならない以上、原則的には、その保障を受けるべきものと解される。
 労働基本権の制限は、労働基本権を尊重確保する必要と国民生活全体の利益を維持増進する必要とを比較衡量して、両者が適正な均衡を保つことを目途として決定すべきであるが、労働基本権が勤労者の生存権に直結し、それを保障するための重要な手段である点を考慮すれば、その制限は、合理性の認められる必要最小限度のものにとどめなければならない。
 労働基本権の制限は、勤労者の提供する職務または業務の性質が公共性の強いものであり、したがってその職務または業務の停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものについて、これを避けるために必要やむを得ない場合について考慮されるべきである。
 争議行為が労組法1条1項の目的を達成するためのものであり、かつ、暴力の行使その他の不当性を伴わない場合には、刑事制裁の対象とはならないと解するのが相当である。
 よって、被告人らの行為が「正当なもの」かどうか判断する必要があるため、原判決を破棄し、東京高等裁判所に差戻す。

5 公務員のストライキは認められない

 今回のケースで裁判所は、郵政職員が公共企業体等労働関係法17条で禁止される争議行為を行ったことについて、第二審の有罪判決を破棄差戻して、公務員が「全体の奉仕者」を根拠として争議行為が一律に禁止されるのではなく、必要最小限でなければならないとして、公務員の争議行為が限定的に認められると判断しました。しかし、最高裁はその後の全逓名古屋中央郵便局事件では態度を改めて、ストライキ権を認めないとの判決を下しています。
 日本では公務員にはストライキ権がないと理解しておく必要があるでしょうね。

では、今日はこの辺で、また。


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