出世払い事件
こんにちは。
戦国時代の名武将の藤堂高虎は、その若かりし頃、餅屋から餅を恵んでもらうほどお金に困っていました。その後に大名になって、大名行列で餅屋の前を通ったときに、餅屋の主人に「私は、十年以上も前に、あなたに餅を恵んでもらった浪人です。あなたのおかげで大名まで出世できました。これはあのときの餅の代金です。受け取ってください」というエピソードから、出世払いという言葉が広がったようですね。
さて今日は、出世払いでお金を借りたときに、出世しなかったらどうなるのかが問題となった「出世払い事件」(大判大正4年3月24日民録21輯439頁)を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
笹鹿久太郎は、田後興一郎から60円を借り、その際に「出世払いで返す」としていまいた。明治40年に、田後は笹鹿が数百円の資産を有していたので、出世という事実があると見なして、お金の支払いを求めて提訴したところ、笹鹿は消滅時効の期間が過ぎているので、支払いは不要だと反論しました。
2 大審院の判決
笹鹿は、明治33年に債務の弁済をしてなお多少の余裕がある生活を送れる財産状態だったので、出世の域に達している。
出世という事実が後日に到来するかどうかは、不確定であることはもちろん、消費貸借契約の趣旨からすると、出世という事実の到来によって債務の効力が発生するのではなく、すでに発生した債務の履行を制限し、債務者が出世したときに履行をしなければならないことから、その債務は不確定期限を付けたものであって、停止条件付きの債務ではない。
しかし、債権の消滅時効は債権者が権利を行使することができる時から進行を開始し、不確定期限債務といえども、その到来の時から債権者は弁済を請求することができ、これと同時に消滅時効が進行し、債権者が期限の到来を知っているか、そうでないか、または過失があるかどうかを問うことを要しないものというべきである。
よって、田後の上告を棄却する。
3 出世払いは不確定期限
今回のケースで裁判所は、「出世したときにお金を返してくれたら良いよ」といってお金を貸した場合、実際に出世できないことが明らかになったときに、貸主がお金の返済を求めることができるとしました。
また、出世払い債務の履行期の到来を知らなかったとしても、消滅時効が進行する点にも注意が必要でしょうね。
では、今日はこの辺で、また。
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