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茨城石炭商事事件

こんにちは。

 従業員は会社に貢献して莫大な利益を上げても、給料しかもらえないのに、仕事で大きなミスをして会社が億単位の損害を被ったときに、全額賠償しろと言われると不公平ではないかという考え方があります。

 今日は、業務中に従業員が起こした自動車事故により損害を被った会社がどの程度従業員に賠償できるのかが問題となった「茨城石炭商事事件」(最判昭和51年7月8日ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 茨城石炭商事株式会社は、主に石油の輸送、販売を行っており、タンクローリーを20台ほど保有していました。ある日、いつも小型貨物自動車を運転していた従業員は、臨時的にタンクローリーの運転を命じられて国道を走行していたところ、前方の車が急停止したため追突事故を起こしてしまいまいた。会社は従業員の不注意による事故で会社に損害を与えたとして、従業員に対して40万円の損害賠償を求めて提訴しました。

2 茨城石炭商事の主張

 従業員は、タンクローリーの運転中、前方不注意により前の車に追突し、相手の車だけでなく、自社のタンクローリーも破損させた。会社は使用者責任として被害者の車の修理代として約7万円を支払い、またタンクローリーの修理代や車を使えないことで33万円もの損害を被った。従業員には、自分のミスで起こした事故についてきちんと責任をとって欲しい。だから、40万円全額の支払いを求める。

3 従業員の主張

 私の給料は月45000円で、勤務成績も普通だったのに、これはあんまりじゃないでしょうか。今回の事故の原因は、いきなり慣れないタンクローリーに乗れと命じられたことによるものだし、会社も対人賠償責任保険のみ加入し、対物賠償責任保険や車両保険に入っていなかったじゃないか。なんで私が40万円もの大金の全額賠償をしないといけないのか。

4 最高裁判所の判決

 使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。
 茨城石炭商事は、石炭、石油、プロパンガス等の輸送及び販売を業とする資本金800万円の株式会社であつて、従業員約50名を擁し、タンクローリー、小型貨物自動車等の業務用車両を20台近く保有していたが、経費節減のため、その車両につき対人賠償責任保険にのみ加人し、対物賠償責任保険及び車両保険には加入していなかった。従業員は、主として小型貨物自動車の運転業務に従事し、タンクローリーには特命により臨時的に乗務するにすぎず、今回の事故当時、従業員は、重油をほぼ満載したタンクローリーを運転して交通の渋滞しはじめた国道上を進行中、車間距離不保持及び前方注視不十分等の過失により、急停車した先行車に追突したものである。事故当時、従業員は月額約4万5000円の給与を支給され、その勤務成績は普通以上であつた、というのであり、この事実関係のもとにおいては、茨城石炭商事がその直接被つた損害及び被害者に対する損害賠償義務の履行により被った損害のうち従業員に対して賠償及び求償を請求しうる範囲は、信義則上損害額の4分の1を限度とすべきである。
 よって、上告を棄却する。

5 会社の求償権を信義則で制限

 今回のケースで裁判所は、会社の従業員がその業務中の自動車事故で会社に損害を与えた場合、使用者が車両保険に加入せず、また特命でタンクローリーを運転させるなどの事情を考慮して、会社は信義則上、4分の1を限度として従業員に賠償金を請求できるにすぎないとしました。
 従業員の過失の程度によって、損害賠償額が変わってくることになりますので十分に注意しましょう。

では、今日はこの辺で、また。


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