ドワンゴvs米FC2事件
こんにちは。
みなさんは、動画を見るときはYoutubeを利用していますか。この動画もYoutubeで配信されているのですが、日本を代表する動画共有サービスとしてニコニコ動画があります。動画サービス以外に、イラストや漫画を見ることができるニコニコ静画や、ゲームを投稿できるゲームアツマール、ニコニ立体など無料で楽しめるコンテンツがあることも魅力的ですね。
さて今日は、ニコニコ動画の特許が問題となった「ドワンゴvs米FC2事件」(知財高判令和4年7月20日ウェブサイト)を紹介したいと思います。
原審(東京地判平成30年9月19日裁判所ウェブサイト)は、こちら。
1 どんな事件だったのか
「ニコニコ動画」を運営しているドワンゴは、コメントを表示する機能について特許を有していました。ところが、動画配信サービス「FC2動画」などで、ドワンゴのコメントを表示する機能に関して特許権が侵害されているのではないかということが問題となりました。その後、ドワンゴはFC2に対してコメント表示用プログラムの譲渡・生産・使用の差止めと1億円の損害賠償を求めて提訴しました。
2 ドワンゴ側の主張
FC2は、我々が開発したコメント欄が流れるシステムと類似のものを作成し、インターネットを解して日本のユーザーにサービスを提供しながら、我々の特許を侵害しているのだ。また、管理するサーバーが国外にあったとしても、利益の大部分は日本国内から得ているので、単にサーバーを国外に設置することだけで、特許権の侵害を免れるというのは、著しく妥当性を欠いている。
3 FC2側の主張
プログラムは、ユーザーが使用するコンピュータにインストールされるものではなく、ブラウザを介してコンピュータに動画ファイル及びコメントファイルが送信され、ユーザーのメモリまたは一時保管領域に一時的に記録されるだけなので、特許を侵害しているわけではない。そもそも、我々のサービスにかかる情報は、アメリカ内のサーバーから自動的に配信されるものなので、日本の特許法の効力は及ばない。
4 知的財産高等裁判所の判決
ネットワークを通じて送信され得る発明につき特許権侵害が成立するために、問題となる提供行為が形式的にも全て日本国の領域内で完結することが必要であるとすると、そのような発明を実施しようとする者は、サーバ等の一部の設備を国外に移転するなどして容易に特許権侵害の責任を免れることとなってしまうところ、数多くの有用なネットワーク関連発明が存在する現代のデジタル社会において、かかる潜脱的な行為を許容することは著しく正義に反するというべきである。他方、特許発明の実施行為につき、形式的にはその全ての要素が日本国の領域内で完結するものでないとしても、実質的かつ全体的にみて、それが日本国の領域内で行われたと評価し得るものであれば、これに日本国の特許権の効力を及ぼしても、属地主義には反しないと解される。
問題となった配信は、日本国の領域内に所在するユーザがFC2の各サービスに係るウェブサイトにアクセスすることにより開始され、完結されるものであって、配信につき日本国の領域外で行われる部分と日本国の領域内で行われる部分とを明確かつ容易に区別することは困難であるし、配信の制御は、日本国の領域内に所在するユーザによって行われるものであり、また、配信は、動画の視聴を欲する日本国の領域内に所在するユーザに向けられたものである。さらに、配信によって初めて、日本国の領域内に所在するユーザは、コメントを付すなどした本件発明に係る動画を視聴することができるのであって、配信により得られる発明の効果は、日本国の領域内において発現している。これらの事情に照らすと、配信は、その一部に日本国の領域外で行われる部分があるとしても、これを実質的かつ全体的に考察すれば、日本国の領域内で行われたものと評価するのが相当である。
よって、FC2はプログラムの生産、譲渡、電気通信回線を通じた提供をしてはならず、またドワンゴに対して1億円を支払え。
5 国外の発明にも日本の特許が及ぶ
今回のケースで裁判所は、ドワンゴ側の主張を退けてFC2側が勝利した東京地裁の判断を変更し、プログラムが日本国外のサーバーから配信されていたとしても、特許発明の実施行為が実質的に日本の領域内で行なわれたと評価することができるのであれば日本の特許権の効力が及ぶとしました。
つまり、プログラムに関する外国での発明について、利用者の大半を占める日本のユーザーが発明の利益を得ているのであれば、日本の特許権の効果が及ぶとしていますので、プログラム開発の現場では十分に注意する必要があるでしょうね。
では、今日はこの辺で、また。