近ツー過大請求事件
こんにちは。
今日は、自治体からコールセンターの業務を受託した際にその過大請求が問題となった大阪地判令和6年1月16日を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
近畿日本ツーリスト静岡支店に勤務し、次長の地位で営業を担当していた従業員は、静岡県掛川市と焼津市から、ワクチン接種のコールセンター業務などを請け負いました。その際に、オペレーターの人数を水増しするなどして、掛川市と焼津市から約2億4000万円をだまし取ったことから、逮捕起訴されました。
2 大阪地方裁判所の判決
主文:よって、被告人を懲役2年に処する。この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
詐取金額は非常に高額であり、水増し・架空請求した分に限ってみても合計5281万1660円に上っており、結果は重大というほかない。
もっとも、詐取に至る経緯・動機や詐取金の帰属先についてみると、被告人は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い旅行の需要が減り、会社の業績が悪化している中、自らの営業により受注できたワクチン接種事業に係るコールセンター業務につき市や再委託先業者と折衝等を重ねる過程で、市側が当初要求していたとおりの人数の作業従事者を派遣したり多言語対応をしたりせずともコールセンターの応答に支障は生じないなどと考える一方、これを機に派遣人数を水増しするなどの方法で過大請求を行えば、会社の収益が上がり、危機的状況にある会社に貢献し得るなどと考え、各犯行に及んだと認められる。公的資金を詐取するという事の重大さに思いを致すことなく犯行に及んだ被告人の判断は、安易というほかないが、一次的には会社の売上増を目的とした犯行であって、だまし取った現金を自らに帰属させる詐欺事案とは異なるし、高い計画性を認め得る事案ともいい難い。近畿日本ツーリスト社内で過大請求等を是正し得るようなチェック機能が働いていなかったことも、巨額の被害を発生させた要因の一つと言い得る。
また、犯行後の事情とはいえ、近畿日本ツーリストと掛川市及び焼津市との間では、本件過大請求に係る近畿日本ツーリスト側の不当利得金について、遅延損害金を含めて市側に返還することを合意する旨の和解契約がそれぞれ締結されており、同契約に基づく被害弁償も実施済みであり、両市の財産的被害は既に回復済みと認められる。この点は財産犯である本件につき、被告人の刑事責任を大幅に軽減する事情といえる。
以上の事情のほか、被告人が各犯行を認めて反省の態度を示していることや、自業自得とはいえ、本件を機に懲戒解雇されて退職金も得られなくなるなど一定の社会的制裁を受けていることも踏まえると、前科前歴がなく、現時点で再犯可能性が高いとは認められない被告人につき、実刑を選択することは酷といえる。そこで、被告人に対しては、主文のとおりの刑に処した上で、その執行を全部猶予し、社会内で更生する機会を与えることとした。
3 同様の過大請求が全国で発覚
今回のケースで裁判所は、近畿日本ツーリストの従業員が自治体から請け負ったワクチン業務について過大請求をして2億4000万円をだまし取った行為につき、結果は重大だがコロナの感染拡大で旅行需要が減り、会社の収益向上に貢献するために事件を起こしたもので、高い計画性も認められないとして懲役2年、執行猶予4年の判決を言い渡しました。
この事件以外にも、近ツーの従業員が東大阪市に対して8億9000万円余りの業務委託費をだまし取ったことについて、懲役3年、執行猶予5年の判決が言い渡されています。過大請求で得ていた受託報酬が市民の税金であるということを、あたらめて認識しておく必要があるでしょうね。
では、今日はこの辺で、また。