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賃料債権と遺産分割事件
こんにちは。
今日は、賃料債権が遺産分割の対象となるのかが問題となった最判平成17年9月8日を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
夫が平成8年10月13日になくなり、その法定相続人には、後妻と先妻との間に生まれた子ら4名がいました。夫の遺産には不動産があり、後妻と子らは、不動産から生ずる賃料、管理費等について、遺産分割によって不動産の帰属が確定した時点で清算することとし、それまでの期間に支払われる賃料等を管理するための銀行口座を開設し、不動産の賃借人らに賃料をこの口座に振り込ませ、また、その管理費等をその口座から支出してきました。
大阪高等裁判所は、平成12年2月2日、各不動産につき遺産分割をする旨の決定をし、確定しましたが、銀行口座の残金の2億円の分配をめぐって争いが生じました。
後妻は、遺産分割で不動産を取得したので、保管金のうち1億9000万円は自分のものであると主張して、子どもらに対して、その支払いを求めて提訴しました。これに対して子どもらは、遺産分割決定が確定するまでは、法定相続分に従って各相続人に賃料債権が帰属するはずだと主張し、後妻の取り分は1億円であると反論しました。
2 最高裁判所の判決
第一審、第二審は、後妻の請求を認容すべきと判断しました。これに対して、最高裁は次のような理由で、原判決を破棄し、高裁に差し戻しました。
原審は、次のとおり判断し、後妻の請求を認容すべきものとした。
遺産から生ずる法定果実は、それ自体は遺産ではないが、遺産の所有権が帰属する者にその果実を取得する権利も帰属するのであるから、遺産分割の効力が相続開始の時にさかのぼる以上、遺産分割によって特定の財産を取得した者は、相続開始後に当該財産から生ずる法定果実を取得することができる。そうすると、本件各不動産から生じた賃料債権は、相続開始の時にさかのぼって、本件遺産分割決定により本件各不動産を取得した各相続人にそれぞれ帰属するものとして、本件口座の残金を分配すべきである。これによれば、本件保管金は、後妻が取得すべきものである。
しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。
したがって、相続開始から本件遺産分割決定が確定するまでの間に本件各不動産から生じた賃料債権は、後妻及び子どもらがその相続分に応じて分割単独債権として取得したものであり、本件口座の残金は、これを前提として清算されるべきである。
そうすると、上記と異なる見解に立って本件口座の残金の分配額を算定し、後妻が本件保管金を取得すべきであると判断して、後妻の請求を認容すべきものとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
よって、原判決を破棄し、大阪高等裁判所に差し戻す。
3 賃料債権は遺産分割の対象ではない
今回のケースで裁判所は、相続開始から遺産分割までの間に共同相続に係る不動産から生ずる金銭債権たる賃料債権は、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し、その帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けない、としました。
つまり、遺産の不動産から発生した賃料は遺産には含まれず、それぞれの相続人が相続分に応じた金額を取得しますが、遺産分割後の賃料は、その不動産を取得した相続人のものとなりますので、注意が必要でしょうね。
では、今日はこの辺で、また。