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無権代理人の相続人がさらに本人を相続した事件

 こんにちは。
 今日は、「無権代理人の相続人がさらに本人を相続した事件」(最判昭和63年3月1日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 亀谷峰は愛知県小牧市に土地を所有していましたが、その妻のとぞが勝手に夫の峰の代理人として、野崎峯男に土地を売り渡しました。野崎からさらに、倉知喜市郎に土地が売却され、所有権移転登記がなされました。その後、妻のとぞが死亡し、夫の峰と子の3人が無権代理人の地位を相続しました。ところが、夫の峰も死亡したことから、亀谷冨喜子、小谷花代、亀谷巌の3人の子がその無権代理人の地位を相続しました。そこで、冨喜子らは無権代理行為の追認を拒絶し、相続により土地を取得したと主張して、倉知喜市郎に対して、所有権移転登記の抹消登記手続を求めて提訴しました。

2 最高裁判所の判決

 原審は、無権代理人が本人を相続した場合に、無権代理行為の追認を拒絶することが信義則上許されないとされるのは、当該無権代理行為を無権代理人自らがしたという点にあるから、自ら無権代理行為をしていない無権代理人の相続人は、その点において無権代理人を相続した本人と変わるところがなく、したがって、無権代理人及び本人をともに相続した者は、相続の時期の先後を問わず、特定物の給付義務に関しては、無権代理人を相続した本人の場合と同様に、信義に反すると認められる特別の事情のない限り、無権代理行為を追認するか否かの選択権及び無権代理人の履行義務についての拒絶権を有しているものと解するのが相当であるとの見解のもとに、本件売買に関して無権代理人であるとぞ及び本人である峰をともに相続した冨喜子らは、信義に反すると認められる特別の事情のない限り、本人の立場において本件売買の追認を拒絶することができ、また、無権代理人の立場においても本件各土地を含む前記土地の所有権移転義務を負担しないものであり、しかも、右の追認ないし履行拒絶が信義に反すると認められる特別の事情があるということはできず、本件売買が有効となることはないとして、倉知氏の抗弁を認めず、本件各土地の共有持分権に基づいて本件各登記の抹消登記手続を求める冨喜子らの本訴請求を認容すべきものと判断している。しかしながら、原審の右の判断を是認することはできない。その理由は次のとおりである。
 すなわち、無権代理人を本人とともに相続した者がその後更に本人を相続した場合においては、当該相続人は本人の資格で無権代理行為の追認を拒絶する余地はなく、本人が自ら法律行為をしたと同様の法律上の地位ないし効果を生ずるものと解するのが相当である。けだし、無権代理人が本人を相続した場合においては、本人の資格で無権代理行為の追認を拒絶する余地はなく、右のような法律上の地位ないし効果を生ずるものと解すべきものであり、このことは、信義則の見地からみても是認すべきものであるところ、無権代理人を相続した者は、無権代理人の法律上の地位を包括的に承継するのであるから、一旦無権代理人を相続した者が、その後本人を相続した場合においても、この理は同様と解すべきであって、自らが無権代理行為をしていないからといって、これを別異に解すべき根拠はなく、更に、無権代理人を相続した者が本人と本人以外の者であった場合においても、本人以外の相続人は、共同相続であるとはいえ、無権代理人の地位を包括的に承継していることに変わりはないから、その後の本人の死亡によって、結局無権代理人の地位を全面的に承継する結果になった以上は、たとえ、同時に本人の地位を承継したものであるとしても、もはや、本人の資格において追認を拒絶する余地はなく、前記の場合と同じく、本人が自ら法律行為をしたと同様の法律上の地位ないし効果を生ずるものと解するのが相当であるからである。
 これを本件についてみるに、前記の事実関係によれば、とぞは、峰の無権代理人として、本件各土地を野崎に売却した後に死亡し、冨喜子ら及び峰が同女の無権代理人としての地位を相続により承継したが、その後に峰も死亡したことにより、冨喜子らがその地位を相続により承継したというのであるから、前記の説示に照らし、もはや、冨喜子らが峰の資格で本件売買の追認を拒絶する余地はなく、本件売買は本人である峰が自ら法律行為をしたと同様の効果を生じたものと解すべきものである。そうすると、これと異なる見解に立って、無権代理行為である本件売買が有効になるものではないとして、倉知氏の抗弁を排斥し、冨喜子らの本訴請求を認容すべきものとした原判決には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかというべきであるから、右違法をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、以上の見地に立って、倉知氏の抗弁の当否について、更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すべきである。

3 無権代理人を相続した後に本人を相続

 今回のケースで裁判所は、無権代理人を本人とともに相続した者がその後、さらに本人を相続した場合、本人が自ら法律行為をしたと同様の法律上の地位ないし効力を生ずるものと解するのが相当であるとしました。
 無権代理人を相続した第三者は、無権代理人としての地位を承継したことになるので、その後に本人を相続すると無権代理行為の追認を拒絶できないという点に注意が必要でしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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