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東京リーガルマインド事件

こんにちは。

 みなさんは、「こんな会社、辞めてやるっ!」と思ったことがあるでしょうか。転職が当たり前になっている時代ではあるのですが、会社を辞めた後に同業他社に就職しようとすると、前の会社と結んだ「競業避止に関する誓約書」が問題となることがあります。今日はその具体的な事例として、「東京リーガルマインド事件」(東京地決平成7年10月16日判例タイムズ894号73頁)を紹介してみたいと思います。

1 どんな事件だったのか

 伊藤真氏は、LEC東京リーガルマインド(株式会社東京リーガルマインド)のカリスマ講師でした。伊藤真氏がLECの監査役に就任するときには、「退職した後も競業関係にある事業を2年以内は行わない」という旨の役員誓約書を提出していました。その後、役員就業規則の変更でも「退職後2年間の競業避止義務」に関する条項が新設され、中央労働基準監督署に届出がなされました。

 やがて、伊藤真氏はLECを退職する決意をし、退職するにあたって提出が義務付けられていた「秘密保持誓約書」(業務上知り得た会社の秘密、ノウハウを他人に漏らさない)を提出する代わりに、「LEC社と事前協議を行えば競業ができる。早稲田経営学院及び辰巳法律研究所とは、今後一切関わりを持たない」といった旨の覚え書を提出しました。退職して1カ月たったときに伊藤真氏は、LECの取締役全員と事前協議をしたうえで、司法試験受験指導を行う「伊藤真の司法試験塾」を設立しました。

 ところがLECは誓約書や役員就業規則に基づいた競業禁止義務違反を理由に、伊藤塾の運営の差止めを求めたのです。

2 LEC側の主張

 就業規則における競業避止義務を定める条項は、合理的なものである。「レック体系」を表現したレックテキストと、これを講義する専任講師とが車の両輪となって受講生に「レック体系」を講義する方式や司法試験受験指導に関するノウハウは、わが社が独自に開発したものであり、保護に値するものだ。

3 伊藤真氏の主張

 監査役は取締役会から独立した機関であり、取締役会の決議に拘束されないから、役員就業規則は監査役に対して効力を生じない。LEC側は役員誓約書を提出することで競業避止の特約がなされたというが、地域性、職種の点で無限定になっているので、このような特約は公序良俗に反して無効である。また事前に競業に関してLEC側と協議するという覚え書を交わしていたので、競業避止義務は免除されていたはずだ。

4 東京地方裁判所の決定

 監査役についてまで競業行為を禁止することの合理的な理由がなく、競業行為の禁止される場所の制限がないなど、競業行為の禁止措置の内容が必要最小限度にとどまっていないので、役員誓約書と役員就業規則にある退職後の競業避止義務に関する約定は、公序良俗に反して無効といわざるを得ない。

5 競業行為の禁止は必要最小限にとどめる

 今回のケースでは、伊藤真氏がLEC側と事前に協議をした上で、伊藤塾を設立していたことから、競合避止義務条項の適用が免除され、また無限定の競業避止義務が公序良俗に反して無効であるとされました。

 逆に、退職する労働者に競業避止義務を課そうとする場合には、多額の退職金を払うなどの代替措置を取りながら、必要最小限度で取り決めをしておく必要がありそうですね。

 では、今日はこの辺で、また。


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