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ゼンリン住宅地図事件

こんにちは。

 今日は、地図の著作権が問題となった東京地判令和4年5月27日を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 株式会社ゼンリンは、日本全国の地図情報を調査し、紙媒体の住宅地図や電子住宅地図デジタウンなどを作成し、販売していました。長野県内でポスティング業を営んでいる有限会社ペーパー・シャワーズは、ゼンリンの住宅地図を購入し、そこに新築物件や空き家、家のポストの位置、新しい道などを書き加えて、ポスティングスタッフに配布したり、ウェブサイト上に掲載したりしていました。
 これに対して、ゼンリンは、自社の住宅地図の著作権が侵害されたとして、地図の複製物を譲渡又貸与により公衆に提供し、ウェブサイト上での自動公衆送信することの差止と、3000万円の損害賠償を求めて提訴しました。

2 東京地方裁判所の判決

 東京地方裁判所は、次のような理由で、ペーパーシャワーズの著作権侵害を認定し、3000万円の損害賠償などを命じました。

 一般に、地図は、地形や土地の利用状況等の地球上の現象を所定の記号に よって、客観的に表現するものであるから、個性的表現の余地が少なく、文 学、音楽、造形美術上の著作に比して、著作権による保護を受ける範囲が狭 いのが通例である。しかし、地図において記載すべき情報の取捨選択及びそ の表示の方法に関しては、地図作成者の個性、学識、経験等が重要な役割を 果たし得るものであるから、なおそこに創作性が表れ得るものということが できる。そこで、地図の著作物性は、記載すべき情報の取捨選択及びその表 示の方法を総合して判断すべきものである。
 本件改訂により発行されたゼンリンの各地図は、都市計画図等を基にしつつ、ゼンリンがそれまでに作成していた住宅地図における情報を記載し、調査員が現地を訪れて家形枠の形状等を調査して得た情報を書き加えるなどし、住宅地図として完成させたものであり、目的の地図を容易に検索することができる工夫がされ、イラストを用いることにより、施設がわかりやすく表示されたり、道路等の名称や建物の居住者名、住居表示等が記載されたり、建物等を真上から見たときの形を表す枠線である家形枠が記載されたりするなど、長年にわたり、住宅地図を作成販売してきたゼンリンにおいて、住宅地図に必要と考える情報を取捨選択し、より見やすいと考える方法により表示したものということができる。したがって、本件改訂により発行されたゼンリンの各地図は、作成者の思想又は感情が創作的に表現されたものと評価することができるから、地図の著作物であると認めるのが相当である。 また、本件改訂より後に更に改訂されたゼンリンの各地図は、いずれも本件改訂により発行されたゼンリンの各地図の内容を備えるものであるから、同様に地図の著作物であると認めるのが相当である。
 ペーパーシャワーズは、本件改訂より前に発行されたゼンリンの各地図又は本件改訂以降に発行されたゼンリンの各地図を購入し、1つの配布エリアがA3サイズ1枚に収まるように、これらのゼンリンの各地図の該当頁を適宜縮小して複写し、これらのうち必要な部分を切り取り、道路や建物等にずれが生じないようにつなぎ合わせるなどして、ペーパーシャワーズ各地図の原図を作成したこと、ペーパーシャワーズは、広告物のポスティングを行う配 布員に対し、ペーパーシャワーズ地図の各原図を複写してこれを交付したこと、ペーパーシャワーズは、新たに得た情報を書き込むなどしてペーパーシャワーズ地図の各原図を修正して新たな原図を作成したことが認められる。 そして、本件改訂以降に発行されたゼンリンの各地図は、地図の著作物と認められる。 したがって、ペーパーシャワーズの上記各行為のうち本件改訂以降に発行されたゼンリンの各地図に係るものは、ゼンリンの複製権を侵害するものと認めるのが相当である。
 ペーパーシャワーズは、ゼンリンの各地図を合計96万9801頁複製したものである。そして、ゼンリンの各地図の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は1頁当たり200円と認められるので、ゼンリンは、ペーパーシャワーズの著作権侵害行為により、1億9396万200円の損害を被ったと認められる。 そして、ペーパーシャワーズの不法行為と相当因果関係の認められる弁護士費用相当額は、1900万円と認めるのが相当である。 したがって、ゼンリンに生じた損害額の合計は2億1296万200円である。
 よって、ペーパーシャワーズは、ゼンリンに3000万円を支払え。

3 地図の著作権

 今回のケースで裁判所は、ゼンリンが作成した住宅地図が著作物に当たり、ポスティング会社による無断複製や譲渡、サイトへのアップロードが著作権侵害に当たるとして、それらの差止や損害賠償を認めました。

 地図は、地形や土地の利用状況などを所定の記号などを用いて客観的に表現するものであって、個性的表現の余地が少なく、文学、音楽、造形美術上の著作に比べて創造性を認める余地が少ないとのべている裁判例もありますが、地図作成者の個性や経験などから創作性が表れているケースもありますので、地図の無断複製やアップロードをしないように十分に注意する必要でしょうね。

【著作権法10条1項】
この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物

では、今日はこの辺で、また。


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