商船三井タンカー襲撃事件
こんにちは。
イギリス海軍は19世紀の初めまで、乗組員を確保するために、港にたむろしているギャングや、船に乗った経験のある若者を無理矢理に海軍に入れる強制徴募を行なっていたそうで、海賊よりも恐ろしいと思いましたね。
さて今日は、ソマリア沖で商船三井タンカーが襲撃され、その後に逮捕された海賊の裁判権が問題となった「商船三井タンカー襲撃事件」(東京高判平成25年12月18日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。
1 どんな事件だったのか
平成23年3月5日午後10時ごろ、海賊たちがアラビア海の公海上で自動小銃を発射しながら、バハマ国船籍のオイルタンカー「グアナバラ号」に乗り移り、船長らを脅迫して船を乗っ取ろうとしました。しかし、3月6日の午後5時ごろ、救助に駆けつけたアメリカ合衆国海軍兵士に制圧され、その後に日本の海上保安官に身柄が引き渡されて逮捕され、日本に連行された海賊たちが起訴されました。
2 検察官の主張
被告人たちは、自動小銃やロケットランチャーで武装し、46億円相当の重油を搭載したオイルタンカーを乗っ取り、船員らの身代金を得る目的で船舶に乗り込んでいたので、組織性・計画性の強い犯行である。被告人らには、海賊対処法の船舶運行支配未遂罪により、懲役10年を求刑する。被告人らはアメリカ合衆国海軍兵士による制圧の結果として拘束され、その身柄が我が国の海上自衛隊護衛艦に同乗していた海上保安官に引き渡されて逮捕されたもので、自衛官が海賊に対して武器を使用したことはないことから、何ら違法な点はない。
3 海賊たちの主張
そもそも、海賊対処法自体が国際紛争を解決する手段としての武力による威嚇又は武力の行使を禁じる憲法9条に違反しているので、無効である。また、我々は日本の裁判所で裁かれいるが、国連海洋法条約105条によれば、拿捕した国に裁判管轄権があるとしている。そうすると、アメリカに裁判管轄があるのであって、日本で裁判をする権限はないので、起訴手続自体が無効だ。
4 東京高等裁判所の判決
日本国憲法が採用する付随的違憲審査制の下では、当事者の違憲主張に対する裁判所の判断は、原則として当該事件の解決に必要な限度でなされるべきもので、抽象的にある法令の違憲性を主張したり、自己に適用されない規定の違憲を主張することなどは基本的に許されないものである。被告人両名に適用される刑事処罰規定と別個の規定ないし海賊対処法全体の憲法適合性を問題とする主張について判断する必要は認められないというべきである。
国連海洋法条約105条によれば、国際法上管轄権を行使し得るのは被告人らを拿捕した
アメリカ合衆国であり、日本はこれを認められないというのであるが、同条は、その規定振りが全体として権利方式である上、同条が定めるすべての国が有する海賊行為に対する管轄権は、国連海洋法条約によって初めて創設されたものではなく、古くから慣習国際法により認められてきたものであって、このような沿革や同条の趣旨に反するものである。実質的にみても、拿捕国が海賊被疑者の身柄を拘束し証拠も保持しており、同国にその管轄権を肯定するのが適正かつ迅速な裁判遂行、ひいては海賊被疑者の人権保障にも資することからすれば、同条はいずれの国も海賊行為に対して管轄権を行使することができることを前提とした上で、拿捕国は利害関係国その他第三国に対して優先的に管轄権を行使することができることを規定したものと解するのが相当である。
よって、被告人の控訴を棄却する。
5 海賊対処法が初めて適用された事件
今回のケースで裁判所は、海賊行為については国際法上の慣習としてどの国にも裁判の管轄権があるとした上で、海賊たちに懲役10年を科した第一審判決を支持しました。
ソマリア海賊が出現するアラビア海を運行する日本の商船のほとんどが、税制面での優遇を受けるためにパナマなどの船籍が多かったことから、日本の刑法を適用するために海賊対処法が制定されたという経緯も知っておくことも重要でしょうね。
では、今日はこの辺で、また。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?