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マグアンプK事件

こんにちは。

 今日は、商品を小分けして販売することが商標権の侵害に当たるのかどうかが問題となった大阪地判平成6年2月24日(判例時報1522号139頁)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 マグアンプという肥料を販売している株式会社ハイポネックスジャパンは、「MAGAMP」という登録商標を所有いていました。ところが、株式会社草葉ナーセリーは、22キロの容量があったマグアンプを購入した上で、小分けに包装しなおして「マグアンプK」という名前で販売していました。そのため、ハイポネックスジャパンは、草葉ナーセリーに対して商標の使用の差止めと、約357万円の損害賠償を求めて提訴しました。

2 大阪地方裁判所の判決

 大阪地方裁判所は次のような理由で、マグアンプKの標章の使用の差止めと、約156万円の損害賠償を認めました。

 草葉ナーセリーは、本件商標と類似するマグアンプKの標章を、指定商品と同一の商品である草葉ナーセリーの小分け品について、その出所表示機能及び品質表示機能等の自他識別機能を果たす態様で使用しているものと認められる。たとえ小分け品がハイポネックスジャパンの販売にかかる本件商品を開披してその内容物を詰め替えただけのものであったとしても、草葉ナーセリーがマグアンプKの標章を小分け品に使用する行為はいずれも本件商標権を侵害するものといわざるを得ない。
 また、実質的にみても、本件商品のような化成肥料は、その組成、化学的性質及び製造方法に関する知識を有するハイポネックスジャパンや製造者以外の者がこれを小分けし詰め替え包装し直すことによって品質に変化を来すおそれが多分にあり、その際異物を混入することも容易であるから、草葉ナーセリーの小分け品販売行為が許されるとすると、商標権者たるハイポネックスジャパンの信用を損い、ひいては需要者の利益をも害するおそれがあるので、草葉ナーセリーの小分け品販売行為は本件商標権を侵害するものといわざるを得ない。
 登録商標権者は指定商品について登録商標の使用をする権利を専有し(専有権)、また登録商標に類似する標章の他人による使用を禁止する権利(禁止権)を有し、第三者はこれらを使用することができないことが法により保障されているのは、登録商標は権利者により適法に使用されてはじめてその出所表示機能及び品質保証機能等の自他商品識別機能を発揮し得るからであり、権利者以外の無権限の者に登録商標の使用を許すと、権利者の信用が権限なき者の手に委ねられ、その結果、登録商標に対する信頼の基礎が失われ、抽象的には常に権利者の信用が毀損のおそれに晒されることになって、登録商標の右機能を発揮し得ないことが明らかであるからである。したがって、当該商品が真正なものであるか否かを問わず、また、小分け等によって当該商品の品質に変化を来すおそれがあるか否かを問わず、商標権者が登録商標を付して適法に拡布した商品を、その流通の過程で商標権者の許諾を得ずに小分けし小袋に詰め替え再包装し、これを登録商標と同一又は類似の商標を使用して再度流通に置くことは、商標権者が適法に指定商品と結合された状態で転々流通に置いた登録商標を、その流通の中途で当該指定商品から故なく剥奪抹消することにほかならず、商標権者が登録商標を指定商品に独占的に使用する行為を妨げ、その商品標識としての機能を中途で抹殺するものであって、商品の品質と信用の維持向上に努める商標権者の利益を害し、ひいては商品の品質と販売者の信用に関して公衆を欺瞞し、需要者の利益をも害する結果を招来するおそれがあるから、当該商標権の侵害を構成するものといわなければならない。また、ハイポネックスジャパンは、自らも本件商品を小分けし小袋に詰め替えて再包装し、本件商標に類似するハイポネックスジャパンの標章を紙製包装用外箱に付したハイポネックスジャパンの小分け品を販売しているが、本件商品のような粒状肥料は小分け及び詰め替え再包装の機会に異物が混入したり、或いはその組成に変化をもたらす危険があるため、ハイポネックスジャパンは、本件商品の販売及びその小分け品の小分け及び詰め替え再包装作業に当たり、商品の品質成分を維持するため、特に、本件商品について、定期的に内容品の成分分析を行うほか、小分け品の小分け詰め替え再包装の際にも改めて内容品の成分の分析調査を行い、商品に異物が混入することのないように細心の注意を払い、小分け品の小分け及び詰め替え再包装の用途だけに使用する、専用の製造ラインを工場内に設け、内容品が湿気を帯びると、粒が結合、固結して大きくなったり、化学反応により成分の組成に変化を来し、本件商品が本来具えている品質・特性が劣化するため、小分け品の小分け詰め替え再包装作業をする工場内には空調設備を設置し、それでも工場内の湿度が高くなるときには作業を中止し、小分け品と本件商品の粒の大きさに差異が生じることのないよう、本件商品の包装袋を開披して内容品を小分けし詰め替え再包装する際には、輸送や保管中に砕けて粒の小さくなったものは除去し、紙製包装用外箱に表示した正味重量を割ることのないように、十分注意を払う等、細心の注意を払っていることに鑑みると、ハイポネックスジャパンのような品質管理に意を用いず単純に本件商品を詰め替えた草葉ナーセリー小分け品が本件商品の内容物と同一であるとはいい難いから、この点からみても、草葉ナーセリーのマグアンプKの標章の使用が実質的に正当な事由による使用であって違法性を欠如すると認めることはできない。
 よって、草葉ナーセリーは、マグアンプKの標章を使用してはならず、またハイポネックスジャパンに対して約156万円を支払え。

3 正式にマグアンプKが発売される

 今回のケースで裁判所は、マグアンプの登録商標を付して販売された商品を購入した草葉ナーセリーが、小分けをしてマグアンプKという類似の標章を付して販売することが商標権の侵害に当たるとしました。
 つまり、肥料を小分けすることによって、品質に変化が起きる可能性があるという理由で、商標権侵害にあたると判断しています。
 現在は、ハイポネックスジャパンから正式にマグアンプKという商品が販売されていることにも注意が必要でしょうね。


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